すべてはあの花のために❾

「……はあ。はあ。はあ……」


 ――――いた。Sクラスの校舎の、もう一つの掲示板に貼られたポスターを、あいつは見つめていた。


「(……レン……?)」


 その見つめている瞳が、どこか苦しそうで。……悔しそうで。声を、掛けることなんてできなくて。


「――……ッ!」


 その表情のまま、貼られたポスターに手をかけ、一気に引き裂く。


「…………っ」


 そのあと、泣きそうな顔をしながら赤い封筒をその横に貼り、レンはどこかへ行ってしまった。


「レン……」


 あいつが去って行った掲示板を、もう一度見つめる。


「やっぱり、あんな顔してるってことは、好きでやってるわけじゃないんだろうな……」


 それぐらいわかる。だってあいつは、……いい奴だから。


「課題とか写させてくれるけど、でも、本当にいい奴なんだよ」


 いつだって、誰かの助けになってた。クラス委員だからかもだけど。


「……レン。オレが、お前も助けてやるよ」


 その掲示板をもう一度見た後、その状態をカメラに収める。


「これは、オレがもらっておこうかな」


 貼られた赤い封筒を、一通だけオレは回収する。


「……ごめんけど、お前もオレの駒になってもらうよ」


 スマホに流れているのは、彼が引き裂いたあの現場をばっちり収めた動画。



「……逃がさないよレン。オレは、狙った獲物はとことん追いかけ回すからね」


 しょうがないから、お前のことも助けてあげるよ。


「今までたくさん課題写させてくれたから。そのお礼ね」


 まずは、……そうだ。放課後に呼び出しとかしてみようか。


「いやあ、楽しくなってきた」


 にやりと笑いながら赤い封筒をポケットへと忍ばせ、教室へと足を進めたのだった。


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