すべてはあの花のために❾
8.タネと仕掛け
悪魔
『……いいか蓮。今は柊に頼っているが、お前の代では必ず成功させるんだぞ』
『はい。わかっています、お父さん』
『いい? あなたならできる。……ううん。あなたしかいないのよ蓮』
『はい。わかりました、お母さん』
『『月雪の未来は、お前(あなた)の肩に掛かってるんだ(いるの)』』
『はい。お父さん、お母さん』
小さい頃からそう言われてきた。毎日のように、ずっと。……ずっと。
『ど、どういうことだっ……!!』
オレが、まだ小学校に上がる前、柊の会社が倒れはじめた。
『なんで!? どうして!? 何が起こったの!?』
おんぶにだっこだった月雪も手を尽くしたが、オレが小2の時に柊は倒産した。
『だ、だめだわ。このままじゃ……』
流石にまだオレは小さかった。手伝うなんてできるわけがない。仕事を手伝えるわけもない。
『なんとか手を尽くせ! 代々続いてきた月雪を、俺の代で潰すわけにはいかんっ!』
能力は低く、プライドだけが高かった父や母。まわりの大人たちが、必死になっている姿を。ただオレは、傍観していた。
でも、そんな奴らがいくら手を尽くしたところで、大企業に頼り切っていたんだ。すぐに、月雪はなくなる。……はずだった。
『手を貸してあげましょう』
何の得にもならない。今にも潰れそうな月雪に手を差し伸べたのは、道明寺だった。
その悪魔の手を、愚かな月雪はすぐに掴んだ。初めは、よかったと思った。ああ、これでなんとかなるんだろうって。
でも、知らなかった。ただ、名前だけが使われていたなんて。乗っ取られたんだ。体良く使うために。
月雪――名ばかりの会社。中身はすべて、道明寺だ。それでもいつか、バカな大人たちは取り戻すんだと。月雪を立て直そうと、躍起になって仕事に励んだ。
『……そうだな。君がいいだろう』
小学校高学年になったオレは、ある日道明寺に目をつけられた。
『いいか蓮。失礼のないようにな』
『……はい。わかっています』
『言葉遣いにも気をつけるのよ?』
『……はい。私は大丈夫です、お母様』
ハーフの母は、いろいろ苦労をしてきたらしい。だからオレに、小さい頃から社会での振る舞いを、しつこいくらい叩き込んできた。
まだ小学生のオレに、何をさせようというのか。道明寺に呼ばれたオレが聞いたのは、衝撃的な話だった。
『愚かな父親たちにさせているのは、薬に関する仕事だ』
『……薬?』
バカなのは否定しない。オレだって、そう思ってるんだから。
『薬と言っても、世間一般に言えば違法の薬だ』
『……え』
それって……。
『もしこんなことをしてることがバレたとしても、月雪がしていること。道明寺は何も関与していない』
『……!!』
そんなこと、まだ小学生のオレにだってわかる。
『さて。それを知ったお前はどうするか』
『……そんなの、しちゃいけないことです』
『そうだろうな』
『今すぐ警察に行ってきます。私たちは騙されて利用されているんだってことを。悪いのはあなた方だと言ってきます』
『そうか』
『失礼します』
部屋を出ようと思った。早く伝えないと、知らないオレの親たちは――――。
『お前のような子どもの言うことなど、警察は聞いてはくれん』
『でも事実です。ちゃんと調べてくださいと言えば、警察は信じてくれます』
『残念だが、その警察もこちら側だ』
『……え』