すべてはあの花のために❾

梢と薫


「(……あ。さっそく来たし)」


 バスに乗っていたら、ユズから連絡が来た。しかもめっちゃ長文付きで。


「(そっか。ユズもあいつに救ってもらったか)」


 ま、カナが悪いんだけど。……でも、よかった。


「(あ。データ消しといてねって言うの忘れてた)」


 その内容のメールをしたら、すぐに《了解☆ ひなくんもパンツのこと言わないでね!》って返ってきた。


「(……パンツ?)」


 あの、一人で盛り上がってた時に何か言っていたのだろう。全然聞いてなかったから知らないけど。


「(話自体は葵から聞けるから、オレもこれは最後まで聞かないでおこう)」


 データとメールに保護をつけ、自分しか開けないようにした。


〈1003号室 雨宮 梢〉


「(……オレ、知りませんよほんと)」


 そうしていたら、中から久し振りに聞く声が聞こえてきた。


「(いるなら返事、返してくださいよ……)」


 中に入ったら、コズエ先生とシオンさんがいた。なんであんたの方が早いんだ。
 オレと目が合った先生は、ごめんごめんと目で訴えてきた。……ま、なんとかなったんで、いいですよもう。


「今朝、ぱっと目が覚めちゃったのよね~」

「(嘘ばっかり)」


 先生がそうやって、どうやって目が覚めたのかを話していた。


「とっても良い夢を見てたの。温かくって、ずっとそこにいたいような。……でも、誰かはわからなかったけど、『ダメですよ』って言われたの。『もうすぐ待ち人が来ますから、起きてください』って。そして目が覚めたら病室だったわけ。もうビックリ!」

「(もしかして待ち人って……)」


 最初は、道明寺かと思った。でも、先生の目は……。
 まあそれは置いておいて、みんなで先生に謝った。オレも、もう一回ちゃんと謝っておきたかったから。


「みんな! ずっと黙ってたの!?」


 カナにずっと言わなかったこと。主にオレの方を向いて先生が声を上げる。まあ、アキくんが代表して言ってくれたけど。
 それから先生と少し話をしたあと、シオンさんが次の約束に遅れてるみたいだったから、急いで部屋を出ようとした時、ぽんとオレの肩を叩いて出ていった。


「(え。まさか……)」


 わかんないけど、今から会うのはユズなんじゃないかとか。もしかして先生から、ちょっと話を聞いたんじゃないかとか。……そんなことが頭をよぎったけど、まあ本人に聞いてみよう。

 そのあとみんながいろいろ先生と話をしていた。その顔がとても嬉しそうで、先生もオレもつい頬が緩んだ。


「(……あ。来た来た)」


 そうこうしてたら、マサキさんから昨日の会話の録音が届いた。


「(……ああ。先生は話してないんだ)」


 オレらのおかげでちゃんと謝れてよかったっていうのと、今からユズのとこに行って来るっていう内容が、そこには書かれていた。


「(……みんな、進めるようになった)」


 これも全部あおいのおかげだと思って、ちらりとあいつを見た。


< 28 / 227 >

この作品をシェア

pagetop