すべてはあの花のために❾
「(……っ。あおい……!)」
出ていきたかったけど、エンジュさんに止められた。
『今は、……そっとしておいてやれ』
目線だけで、そう言ってるのがわかる。
「……エンジュさん。お願いします」
「ほいよ。今頃玄関で出られなくって蹲ってるだろうからな」
それからエンジュさんに任せて、みんなであおいのことについて話をしていた。
「……日向」
「うん」
キサが説明しろと目で訴えてくるから、場所を移動した。
「キサが寝てる間のことなんだけど。あいつなかなか寝ようとしなくて、でもカナが無理矢理それを寝かしつけたんだ。その時、寝るのを異常に怖がってた……って言ったらいいかな。さっきも異常なくらい震えてたけど、その時も手が震えてたんだって」
「……冷たいとかっていうのは?」
「カナの家で、あいつ倒れたでしょ?」
「うん。着替えさせた時の話だよね」
「何でかとかは、あいつが話さないからよくは知らないんだけど、時々あいつ倒れてて。その時体もすっごく冷たくなるんだ」
「……そう、なんだ」
「(あれ。そんなに驚いてない……)」
ていうことは、やっぱりキサもどこかおかしいなって思ってたんだ。そして、理事長か誰かに少し話を聞いた……と。
「今回震えていた時は、冷たくなかったからどうしたのかなって話をしてたんだよ」
「……なんで秋蘭は何も話してくれないのかな」
「……なんで、だろうね」
恐らくはアオイが出てきたんじゃないかなって思うけど、理事長に話を聞いているだろうアキくんは、他人にそれは言えないんだ。
それから結局その日は一旦帰って、ゆっくり午後の授業に間に合うくらいに登校しようということになった。
「(大丈夫かな。あおい……)」
寝てしまったこと。傷ついてないだろうか。『大丈夫』って、今すぐにでも言ってやりたい。でもそしたらオレの、アオイの立場が危うくなってしまうから……。
取り敢えずまた夜に電話が掛かってくるだろうから、それを待って、アオイに聞いてみようと思った。
でも、アオイから電話が掛かってくることはなかった。