すべてはあの花のために❾
菖蒲と棗
「ただいま」
「……。っ、はるちゃんっ……!」
家に帰ってきた瞬間、母さんに抱きつかれた。一応連絡は入れておいたんだけど。
「……ごめんね? ご飯とか大丈夫だった?」
「うん。へーき……」
ていうことは、多分食べてないか。
「ごめんね。ご飯何がいい? 急いで作るよ」
「おいしいのー」
「が、がんばる」
ざっくりリクエストに少々困ったけど、急いで作ってあげた。今度は作り置きでもしておいてあげよう。それぐらいなら母さんでもできるでしょ。
ご飯を食べ終わっても寂しかったのか、母さんがオレから離れることはなかったからその日は学校を休むことにした。ま、あおいも来ないし。いっか。つまんないし。
母さんの世話をしてるけど、やっぱり付きっ切りってわけにもいかない。だからそれとなく、母さんに着替えの場所だったり、風呂の入り方だったりご飯の温め方を教えてあげた。
火とか、刃物の場所は絶対に教えない。元栓は常に閉めてるし、包丁が入ってるところの扉はロックをつけてる。と言っても、そこら中のものが凶器になったりするから、ただの気休めだ。
母さんを寝かしつけて、オレもいろいろ調べ物をしようと思ったけど、カオルから先生とのツーショットが送られてきたりした。
ハッキリ言って迷惑。オレもだけど、一番は先生が。
「(どうしたんだろう……)」
いつもの時間。なのに、電話が一向に鳴らない。もしかして、あおいがまだ起きてるのだろうか。
「(無理しないでよ。お願いだから)」
その日もあまり眠れないまま朝になり、母さんにも声を掛けて、オレは学校へ寝に行った。