すべてはあの花のために❾
「……おい。おいヒナタ、起きろー」
「(つんつん)」
「ん。…………なに?」
ここ最近まともに寝られたがないんだからさ、せめて放課後あいつに会うまで寝させてくれたって……。
「アキ慰めに行くぞー」
「(こくり)」
「へ? なんで?」
「今日もあいつ、まだ来てないんだと」
〈連絡来たよ!
みんな今生徒会室いるんだってー〉
「え。……来て、ない? しかも何。さぼりじゃん……」
「いや、お前が言うな」
「(こくこく)」
「一応いるじゃん。テストも十分できてるのにさあー」
「……まあ、アキなんかあったみたいだし。励ましに行こうぜ」
〈あーちゃんの代わりに
甘いもの控えさせないと!〉
「二人の目的が全然違うんだけど……」
まあ仕方ない。何があったかわからないけど、アキくんが落ち込んでるのは確かだ。それに、今日も休むなんてことは言ってなかった。
それに、ハッキリ言って生徒会室のベッドの方が断然いいので、付いていくことにした。
着いて早々アキくんがまた例の飴を舐めていたけど、なんかメールが来たらしい。相手はシントさん。
『だーかーら! 葵が大変だから来いって言ってんの!』
そう言われて猛ダッシュで生徒会室を飛び出したアキくんに続いて、オレらもあいつの家に頑張って走って行った。あいつが心配だったのもあるけど、アキくんが家の前で暴走する方が心配だったからだ。
しかも、実の弟に代引きで金を払わせる始末。やっぱりここの執事、替えた方がいいと思うんだけど。
それから家政婦の人が来て、あいつの部屋の途中まで案内してくれたけど……。
「(多分あおいを怖がってるとかじゃなくて、ここの人たちも家に脅かされてるんだ……)」
異常なほど、オレらとは関わりたくないという感じが表に出ている。……いいや。多分関わったらいけないと、暗に教えてくれたのかも知れない。
「(どこに修行行ってんだよ)」
シントさんから見せてもらったメモを見て苛ついた。
バカじゃないのほんと。寝ずにどこ行ってんだよ。……にしても。
「(『生徒会の方の友人の家』、ね……)」
なんか引っかかった。オレらの友人で、あいつが頼れるような奴はまず二人しかいない。それに……。
「(なんであおいの友人でもあるのに、敢えてオレらをワンクッション入れて、そんなことを言ったんだ……)」
それに、ユズの家は知らないだろうし……あ。よく考えたら、あの券があったわ。そういえば。
着替えも結構持って行ってるし。うん。やっぱり、あの券使ってる。てか道着も持って行ってるってどういうこと? マジの修行じゃん。
「(バカなあおいが考えることといったら……)」
多分だけど、アキくんにアオイを見られたのかもしれない。だから、オレらの前でアオイにならないよう特訓しようとして……。
「(いや。でもそれなら、修行に出てくるくらいは言うか……)」
だったら本当に、それがあおいにとって嫌だったんだよ。つらかったんだ。本当に、オレらにアオイを見られることが。
「(……一人に、なりたいんだきっと。いろいろ考えたいんだ。あいつも)」
だからきっと昨日、アオイはオレに連絡を入れてこなかった。絶対そうだ。毎日掛けてきたのに、掛けてこなかったんだ。アオイも、あおいの気持ちを酌んで、今は一人にさせてやろうと思ったんだ。
「だってシントさんはあいつの執事でしょ? たとえあなたがあいつのことを異常なくらい好いていたとしても、あいつはあなたを信用している。何かあったなら話すはず」
あおいにとっては、一番信用しているのはシントさんと言っても過言じゃない。彼にも言ってないってことは相当だ。……ま、そんな慌ててるシントさんを見て、『ざまあみろ』とは思うけどね。
「一番信用しているあなたにも何も言わなかった。ということは、今は本気で、一人で何かと向き合いたいと思っているんでしょう」
まあ何を修行するのかはハッキリ言ってわかんないけど。恐らくは『アオイ』に関してとかだろう。……だから。