極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
「そうですか?」
「そうよ。あんなふうに社長が執務室に入るのを並んで見送る会社って他にある? それともうちがブラックなの? 強要はしていないのだけど……?」
なにかそんな雰囲気を出しているのかしら、と振り向く。廊下に並んだ女性社員たちが「きゃあ」と黄色くさざめいた。
「いや、これは単純に朝イチで社長を目に納めて眼福を味わう自主的な集まりです」
「……? なんの話?」
「社長って女子校ですよね」
「ええ」
「モテませんでした?」
「どういう意味? 男性と接点は全くなかったわ」
「いえ、同じ学校の生徒さん方にですよ」
「女の子に? ……まあ、生徒会長をしていたころ、こんなふうに生徒が並んでいたことはあるけれど。もしかして揶揄われているのかしら」
私はほんのちょっぴり不安になる。クールで冷静でいたいのに、もしかして周囲からは浮いて軽んじられているのかしら。
「愛されているのですよ」
「そう? ……なら、いいのだけれど」
デスクにつくと、一階のカフェからすぐさまモーニングが届けられる。いつも違う社員が持ってきてくれる。お礼を言うと、たいてい彼女たちは顔を赤らめソワソワしながら出ていくのだ。
私が「極氷」寒河江宗之ならばともかく、「氷の女王」北里三花だ。いったいなにが面白くてあんなにキャアキャア言うのだろうか。
薔薇の花びらがたっぷりとブレンドされたフランス式紅茶をひとくち飲みながら、すでに起動されているパソコンにログインすれば、自分のデスクにいた吉岡が「ははは」と楽しげに笑った。
「社長はご自分の魅力に鈍感ですねえ」
「自分の実力なら嫌というほどわかってるわ。もっと力があれば、寒河江との見合いなど受けずに済んだのだもの」
髪をかき上げ言い切ると、吉岡は眉を下げる。
「そういう意味では……ああでも、お見合いですか。僕は社長の思う通りにされたらいいと思います。従業員一同、同じ気持ちです。たとえ地獄だろうと、社長について行きますよ」
「……ありがとう」
ティーカップをソーサーにそっとおきながら呟く。私はいい部下に恵まれている。
──必ずこの会社を守らなければ。