極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
寒河江さんは「それでは、式で」と言い、タクシーに私を先に乗り込ませた。彼は会社の車が来るという。もしかしたら、まだ仕事があるのかもしれない。呑んでいたけれど、酔っているそぶりは微塵もなかった。
結婚式は夏の盛りに盛大に行われた。当初予定していた通り、宗之さんが社外取締役をしている不動産関連の会社が経営する老舗高級ホテルだ。
計画通りの結婚式、計算通りの人々の反応。
口々に言われる「おめでとう」の言葉に、微笑み返し礼を口にする。
ああ、一体なんの意味があるのだろう。
家と家との結びつきを強くするためだけの、そんな結婚。
私と宗之さんの感情など、ひとつも考慮されていない。
式が執り行われたチャペルから披露宴の会場へ移動するさなか、ふと思い出したように宗之さんは口を開いた。私はマーメードのドレスに、ダイヤがふんだんにあしらわれたティアラだ。ウェディンググローブは式で外している。
宗之さんは白のタキシード。精悍で長身でスタイルもいい彼に、嫌味なほど似合っていた。
「綺麗だな」
「なにがですか」
スタッフにやたらと重いドレスの裾を持たれ歩きながら、私は聞き返す。
「君が」
「ドレスが、でしょうか?」
「君自身が」
思わず立ち止まりそうになる。必死で耐えて横を歩く宗之さんを見上げれば、彼の瞳は相変わらず冷え切っていた。ホッとしてまた前を見据える。社交辞令の類だろう。
ほんのちょっと、声に甘さが交じっていた気がしたのだけれど、気のせいだ。
そんな感情、向けられるはずがない。
「それはどうも。宗之さんもとてもお似合いだと思います」
「そうか。ありがとう」
淡々とふたりで廊下を歩く。スタッフたちも優秀で、口をはさんでもこない。
窓を見ればどこまでも青い空に、白い入道雲が浮かんでいる。
ガラス越しに蝉の声が響いていた。
なんだか無性に泣きたわめきたくなって、でもそれを必死に我慢する。
感情を出してはいけません。
その教えを私は必死に守っている。
母の言葉だからというわけではなく、単に、他人の前で出したってろくなことはないから。