極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
「疲れているでしょう、座っていて。……あらやだ、晴れ姿なのにどうして悲しそうなの」
志津子さんは不思議なほど、無表情のはずの私の感情に気がつく。母を亡くしたあと、思春期の私の体の変化などの不安に寄り添ってくれたのは彼女だった。母親とは違う、特別な人だ。
「だって」
つい幼い口調になった私に、「もう行かなくちゃいけないんだけど」と眉を下げて志津子さんは紙袋を渡す。
「今度、もっとゆっくりお祝いさせてね」
「はい」
「本当におめでとう」
志津子さんは私の肩をそっと撫でて部屋を出ていく。
「志津子さん、披露宴にも参加できなかったのに、寄ってくれたんだわ」
「いい人だよね」
同意する梨々香と再びソファに座りながら呟く。
「……なんであんな男と付き合っているのかしら」
なんでも、志津子さんは元々銀座の高級クラブのママだったらしい。現在はエステを経営している。父はクラブ時代の太客だったのだろうが、そんな人ならいくらでも他に伝手があるだろう。
「恋ってそんなものよ。制御できないの」
「理解できないわ! 私、絶対に恋なんてしないもの!」
できない、と言ったほうが正確か。
「わからないじゃない? あなたにも、王子様があらわれるかも」
梨々花の言葉に思わず吹き出す。
「王子様だなんて! 少女趣味すぎるわ」
「ふふ、三花ったら。あなた思い切り少女趣味な人じゃない」
「それはそうだけれど……現実だってちゃんと知ってるわ。物語の外に、王子さまはいないの」
「リアリストねえ。少しくらい夢を見なさい」
「無理よ。あんな父と兄を見て育って、男性不信にならないほうが変よ」
呟くと、梨々香は首を傾げた。
「おたくの秘書の吉岡さんは? かなり信頼しているようだけれど」
「彼は苦労人で、奥様一筋のいい部下よ」
「ああ……つまり、あなたの男性不信はいわゆるセレブ限定ってわけ」
「というよりも、社会的な肩書きを自分自身の価値と勘違いした無様な男限定で、不信」
「なら、あなたの旦那様は違うんじゃない? 実力ある自信家だし、女性関係の噂もない。むしろクリーンだもの」
反論の言葉が詰まる。たしかに、彼はどうやら私を対等に見ているようだった。年下であることや、女であることは、おそらく彼の前ではなんら評価の対象になってない。