極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

「生活費の負担についてはどうしますか。ああ、同居なのか別居なのかも」
「最初から別居ですと口さがない噂もでますでしょうね」

「俺は気にしません」
「私もです。ただ、申し訳ないのですが……少々込み入った事情があり、最初の数年だけでいいので同居という形をとってもらっても? また、仲のいい夫婦のふりもしていただきたいのです。人前だけで結構なので」

「わかりました。では住居に関しては俺の投資用に購入した物件から住みよいものの資料を数件、秘書から送らせます」
「ありがとうございます。お手数ですが私の秘書宛てにお願いしても」
「もちろんです。以前名刺をいただいていましたね」
「……覚えてらっしゃったんですね」

 びっくりしてほんの一瞬、反応が遅れた。かつて一度ビジネス関係のパーティーで顔を合わせた程度だったというのに。

「俺は一度会った人間の顔は忘れません」

 さらりと言われて内心舌を巻く。

「ところで三花(みつか)さんは子供は欲しいですか」

 さらりと下の名前に切り替え、寒河江さんは……宗之(むねゆき)さんは尋ねてくる。

「必要ないと考えています」
「わかりました。後継は親族のほうでなんとでもするでしょう。では、性的な関係は持たないと、こちらも明記しておきますか」

 私は微かに首を傾げ、この人はそれでいいのかしらと考える。欲求のはけ口は?
 ……私が気にすることじゃないわ。どうせどこかで適当に発散するでしょう。
 父や兄のように。

 彼らの愛人たちの顔を思い浮かべ、悲しい気分になる。
 父の愛人……いや、母の死後だから、恋人か。私は中学生だった。

 紹介されたとき、驚く私に恋人は『困ったことがあったら、よければお母さんだと思って頼ってね』と優しく言った。柔らかな雰囲気の、母とは正反対のかわいらしい女性。
 けれど父は不快そうに眉を寄せ言い放った。

『お前ごときの女が、北里家の妻になれると思っているのか? 家柄も、血筋も、なにもないのに?』

 父にとって女とは、そういう存在だった。人格などなく、対等な関係など望むべくもない。
 兄はもっとひどい。政略結婚した妻が男の子を産むと、これで義務は果たしたと言わんばかりに堂々と愛人を幾人も作り、取っ替え引っ替えしている。義姉はすっかり病んでしまった……。

 それを咎めた私を『ヒステリー』だと一笑にふした父と兄。
 男なんて、信用すべきじゃない。
 女が感情や意見を持つこと自体が彼らにとって"ヒステリー"なのだ。

 どうせ、この人も。
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