極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
宗之さんと目が合った。感情も欲も、その氷のような瞳にはなにも浮かんでいない。
草案があらかたまとまったあたりで、ちょうど襖がそっと開かれた。
「先付でございます」
──そう、私と宗之さんはこの見合いの席、開始十分で話をまとめ上げてしまったのだ。結婚式をいつにするか、招待人数の概算、予算、その後の結婚生活に関すること全てを、懐石料理の前菜が来る前にまとめてしまった。
果たして食事するべきなのだろうか。
一瞬迷った私に、寒河江さんは淡々とつげる。
「ここの料理は旨いぞ」
「そうですか」
食べた方がいいという誘いだろう。宗之さんは手酌で日本酒をぐいぐい呑みながら「君は?」と私をまっすぐに見た。
「呑まないのか」
「……ワイン派でして」
「そうか」
それきり黙って宗之さんは食事を続ける。まっすぐな背筋、嫌味なほど完璧な箸使いに少し気が滅入る。完璧な人間といるというのは、どうしたって息が詰まる。
「ところで、君はいつまで敬語なんだ」
「……どういう意味でしょう?」
「婚約したんだ。対等な立場だろ? いや、敬語が君のスタンスなのなら強制はしないが」
淡々と言われてこっそりと目を瞬く。
対等。
この人は、私を対等な人間だと思っているのか。驚いた。少なくとも私の近くにいる“一流”の男は、女をそんなふうには扱わなかったから。
「……そうですね。これが私の立場です」
そう返した。
私とあなたは婚約はしたが、敬語を排するほど近しい関係性じゃない。
そんな気持ちをこめて。