極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

 その日から、なぜか私は彼の姿を探すようになっていた。彼が帰宅するとソワソワしてしまい、さりげなくリビングに降りて挨拶をしたり、「ついでなので飲みますか?」と紅茶を淹れてみたり。

 宗之さんは本当に生真面目な顔で、ほとんど表情を変えることなく「こんなうまい紅茶は初めてだ」なんてことまでサラリと言ってくる。

 社交辞令だと思うのに、そのたびに梨々香の『寒河江さんってお世辞言わないので有名』って言葉が浮かんでくる。

 ああもう、消えてよ雑念!
 どうしてこんなに彼の言葉に一喜一憂してしまうの? 私らしくない!




 ……ところで、この家には離れがある。その離れを、結婚前に宗之さんは改装していた。
 小さいけれど、そこそこ立派な剣道場になっているのだ。
 もちろん婚前契約書にあったもので、その時はなんとも思っていなかった。
 へえ、剣道が趣味なのね程度の感想は抱いたけれど。

 宗之さんは休みの日や出勤前、暇を見つけてはそこで素振りをするのを日課にしていた。
 私はそれをこっそり眺めに行く──いや最初は本当に庭から窓越しにチラッと見る感じだったのだけれど、すぐに宗之さんに見つかって「興味があるなら見ていけばいい」と淡々と誘われてしまった。

 宗之さんは姿勢がいい。それは剣道のおかげかもしれない、となんとなく思う。
 暦の上では秋なのに、まだまだ暑さが続く剣道場で、汗をかきながら彼は無心で竹刀を振るう。私はただそれを見つめている。


 心臓が高鳴るのは、きっとまだまだ暑いせい。
 空の色だけが秋らしさを増し続けていた。





 それにしても、宗之さんはワーカーホリックなのだろうか。
 私は結婚したら、彼がすぐに愛人を作ると踏んでいた。
 けれどそんなことはなく、生真面目に日々仕事に励んでいるようだ。
 色恋じみた噂がひとつもない彼に愛人などできようものなら、瞬時に噂が出回るはずだから、これは確実だ。

 だから、色々と覚悟していたのに、肩透かしをくらった気分だった。

 そんな宗之さんが一週間、ニューヨークに出張に行くという。
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