極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
二章(宗之視点)
【二章】
三花に関しては、凛とした美しい女性というのが第一印象だった。
どんな話をしている時も、ほとんど表情が動かない。
もとからなのか、そう見えるよう努めているのか、それすら読みとらせない清々しいほどに冷たいかんばせ。
『しかし、社長の奥様には、もう少し柔らかでおだやかで、たおやかなのんびりした方がいいと思っているのですが』
などと言ったのは、長年俺を支えている秘書の谷垣だ。
俺の幼少期から世話係として仕えてきたからか、やや口うるさい。
七十歳にさしかかった谷垣には『そろそろ隠居してはどうだ』と提案しているが、『なにを! まだまだぼっちゃまをお支えしなくては』と余計に溌剌していた。実際阿吽の呼吸で仕事をしてくれるため、助かってはいるのだが。
『三花はその通りの女性じゃないか?』
『何を言っておられるんです、社長。真逆ですぞ。気の強いキャリアウーマンで、……ああ、今時は"バリキャリ"とでも言うのですかね。あだ名は"氷の女王"ですからね。なにしろご実家の関連企業の重役の席を全て蹴って自分で起業するような方です』
『立派なことだろ? それに俺だって"極氷"だのと言われているし』
どうやら俺は冷たく見えるらしい。
経営者としてビジネスマンとしての態度に加え、子供の頃から続けている剣道で『常に冷静であれ』と叩き込まれたせいもあるだろう。
ただ師匠が『常にクールに! ただしハートはホットに!』という熱血指導者だったため、比較的自分にもその傾向はある気がする。
まあ、冷たく見えるのは元の顔立ちと性格もあるかもしれない。
世辞を口にしたくないのは自分の心に嘘をつきたくないのと、相手の成長の妨げになるからだ。
これも師匠の教えだ。多忙な両親にかわり、情緒面の面倒を見てくれたのは師匠だと思っている。
『それはそうですが』
谷垣が不服そうに言葉を続ける。
『不肖谷垣。ずっと社長をお癒しする女性をいまかいまかと待ち望んでおりました。ですのに社長はどれほど素敵な女性でも簡単に袖にして……結局、結婚のお相手はビジネスパートナーも同然の方ではないですか』
『それのなにがいけないんだ? 三花は聡明で冷静な人だった。いい伴侶を得られそうで満足しているよ、俺は』
実際、見合いの席で彼女から見えた冷静さと聡明さは"氷の女王"の名に相応しいものだと思った。
ただ、気になって触れてみれば、なめらかな肌は温かかった。
三花は不服そうだったけれど、俺はなんだか面白い気分になっていた。
そうか、君は生きているんだな。
けれど彼女は氷であろうと努めているようだった。
それがどうしてか、とてもいじらしく、可愛く見えた。
……それにしても、俺はなぜ彼女に触れてみたかったのだろう。
自分から他人に触れることなんて、めったにないのに。いや、触れたくなったのなんか生まれて初めてかもしれなかった。
◇◇◇
「宗之、婚約者とはどうなんだ?」
梅雨ごろ、叔父である義之さんに言われ首を傾げた。彼は父の弟で、俺が社外取締役をしている不動産関連会社の社長だ。叔父といっても十五歳違いで、年の離れた兄のように慕っていた。
会議のため彼の会社の本社に訪れたところ、話があると執務室に連れ込まれ、開口一番に三花とのことを聞かれたのだった。