極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

「……もう少し存在感を出してください」

 あっという間に整っていく表情。
 いや、取り繕われていく、というほうが正確か。
 氷の仮面は彼女の表情を凍り付かせる。

 俺はそれが少し不服だ。

「すまない。普通にしていたつもりだったんだが」
「チャイムくらいは鳴らしていただいてもよいのではと」

 三花は上品に、澄まし顔で紅茶を口にする。

「わかった。ところで、今日はないんだな」
「なにがですか」
「人形」

 小さく三花が息を呑んだのがわかった。
 俺は向かいのソファに座り彼女を観察する。
 緊張しているのが、冷たく整えられた表情の隙間に感じられる。

「可愛い人形なんだから、リビングにだって飾ればいい」
「……え?」
「蒐集しているんじゃないのか? 飾り棚が必要なら業者を手配しよう。ああ、出窓に並べても可愛らしいかもしれないな」
「その。そうでは、なくて」

 三花は言いにくそうに、微かに苦しそうな顔を一瞬覗かせる。なぜだか俺まで苦しくなる。

「宗之さんは……呆れないのですか」
「呆れる? なにに?」
「いい歳をして、人形を集めて、あんなふうに……その」
「一緒にティータイム?」

 三花の頬がみるみる赤くなる。俺は首を傾げた。

「それのどこがいけないんだ? どこにでも持ち歩いてあんなふうにするのは、もしかしたら少し変わった趣向かもしれないが……まあ時と場所にもよるんじゃないか。構わないなら好きにしたらいい。だいたい、君の場合は自宅のサンルームだし。それに好きなものを眺めているのはきっと癒されることなんだろ?」

 俺にはよくわからないが──と、ふと、先日三花をずっと眺めていたかった時の感情を思い出してしまう。
 心臓のあたりがほのかに温かく、蕩けるような……もしかして、ああいうのを“幸福”というのだろうか。
 寝ている妻を見て幸福を感じるだなんて。
 人並のことをしている自分に驚き、「ふ」と笑う。

「なんですか」
「失礼。自分が思ったより一般的な感情を持っていたのが面白くて」

 三花は微かに頬を動かしたが、それ以上表情は動かなかった。
 ただ軽く目を伏せ「そうですか」と小さく口を動かし、続ける。

「……兄が」
「北里社長?」
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