極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
なにかしらの感情があるのならば、もう少し柔和な態度になるだろう。
でもそういったものは全くない。
向けられるのは、相変わらずの理知的な視線だった。
行動との整合性がないように感じて戸惑う。
「でも……梨々香には謝らないとね」
カップを指先で撫でながらひとりごちた。
確かに彼女の言う通り、寒河江宗之は私の父や兄とは違った。
まだ完璧に信用するなんて無理だし、きっと彼に恋なんてものもしないだろうけれど、それでもとにかく違った。
彼は私をひとりの人間として尊重してくれている。
「そこは認めなきゃね……」
「何を認めるんだ?」
「きゃあっ」
性懲りもなく、私は宗之さんにびっくりしてしまう。
剣道をしていることと関係あるのかないのか知らないけれど、彼は大柄な体躯をしている割に足音が静かなのだ。
「だからもう少し音を立ててください」
「すまない」
まったく済まなさそうにしていない。
こんな会話にも慣れてきていて、どうしてか心臓のあたりがくすぐったい。
「コーヒーを淹れようと思うんだが、君もどうだ? それとも紅茶にするか」
このカップをさっそく使うのか、と尋ねられたのだとわかる。
私は頬が緩みそうになるのに気を付けつつ「紅茶にします」と答えた。
「なら今日は俺が淹れよう」
「お疲れですよね。私が」
「いや」
そう言って彼は「失礼」と私のティーカップを持ってさっさと室内に入る。
ぼうっと秋薔薇を見た。まだ咲いている、パッションピンクの秋薔薇……。
出入りの業者が綺麗に整えてくれている庭園は、最初もう少し和風だったと思う。
植栽が少しずつ英国風に植え替えられているようだ。
と、そこで気が付いた。
もしかして、宗之さん、私の趣味に合わせて変更させている?
目を瞬いた。つい口元を押さえて、いつ私がそんな話をしたかしらと考える。
でもあまりにも趣味にピッタリすぎて、それ以外考えられない。
「嘘でしょう」
サンルームに私の声が響いた。どきどきしているのがわかる。
小さく深呼吸をした。このままじゃ「ありがとうございます」とゆるゆるの笑顔を彼に向けてしまいそう。
「そんなの、みっともないわ。はしたない。ダメよ……」
母の声がよみがえる。感情を表に出すのは、よくないことだ。常に冷静でいなさいと母は……『あなたは北里の娘なのだから』と。
ふー……と深く息を吐きだした。そう、落ち着こう。