極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
◇◇◇

 秋が深まり、銀杏や紅葉がすっかり色づいたころ、私は梨々花と食事をすることにした。
 都内にある隠れ家系レストランのランチだ。今日は創作フレンチ。
 彼女とはときどきこうやって会って、お互いのことを報告する会を開催しているのだ。
 いやまあ、単においしいものを食べたいだけなのだけれど。

「あー、ほんっとおいしい、この柚子窯蒸し」

 梨々花が頬に手を当てつつ、くりぬいた柚子に詰まった海鮮に舌鼓を打つ。
 和食風でありながら、ソースや全体の風味はきちんとフレンチだった。

「わかる、柚子の香りが絶妙」

 おいしいご飯を食べていると、ついつい頬が緩む。
 梨々花はそんな私を見て上品に微笑みながら口を開いた。

「ところでこれから連れて行ってくれるのって、寒河江さんが紹介してくれたアンティークのお店なのよね?」
「そうなの。可愛い小物がいっぱいで。これもそうなんだけど」

 私はヴィンテージガラスビーズのビジューが輝く指輪を見せた。

「あら、十九世紀ロンドンなデザイン」
「そうなの。ヴィクトリアスタイルでしょ。ひとめで気に入って」

 リング自体はイエローゴールド。透かしが彫られていたりと、クラシックで上品な風合いだ。
 指輪とお店のすばらしさに気持ちが入ってしまう私を、梨々花はニヤニヤと見た。

「なあに?」
「それ、寒河江さんに買ってもらったの?」
「え、ええ。まあね」

 私はすいっと目をそらす。梨々花はくすくすと笑った。

「それもあってお気に入りってわけ?」
「ち、違うわよ。『俺が紹介した店なんだから、俺が出すんだ』って言い張られて、仕方なくよ、しかたなくっ」

 指輪だけでなく、少し気になって目を留めただけのものも、たくさん購入されてしまった。

「はいはい」
「だから、その顔をやめて……っ」

 その後もニヤニヤしてくる梨々花をかわしながらなんとか食べ終わり、彼女の車で例のアンティークショップに向かう。
 梨々花の車は真っ赤なスポーツカーだ。

「あーあ、いーわねー、新婚さん。話を聞いているだけで楽しいもの」
「新婚らしいことはなにもしてないわ」

 窓の外、街路樹の銀杏は鮮やかな黄色に染まっている。

「あら。それにしてはしょっちゅうデートもしているみたいだし」
「で、デートなんか」
「この間はアフタヌーンティーの老舗にも連れて行ってもらったんでしょう? あそこ予約何か月待ちだと思っているの」
「そ、それは……」

 宗之さんが私のために手を尽くしてくれているのは、事実だ。

「それにちゃあんと結婚指輪だってしているじゃない?」

 私は自分の左手を見た。
 アンティークの指輪と重ね付けした結婚指輪は、晩秋の日差しにきらっと輝いて見えた。
 私は目を窓の外に逸らし、口ごもりながら言い返す。

「こ、これは……単に、ちゃんと婚姻状態を続けていますという父へのアピールで」
「今日会う予定?」
「ないけど」

 ふふん、と満足げに梨々花は目を細める。
 私はなんだか恥ずかしくてたまらない。
 寒河江宗之と結婚してから、私の情緒はなんだか変だ。
 氷でいなくちゃいけないのに……。

「三花、いつだっけ。あなたがバレエの主役、降ろされたの」
「どうしたの唐突に? 小学三年生だったかしら」
「あのときからよ。あなたが人前で感情を押さえようとし始めたのは」

 私は肩をすくめる。さすが幼なじみ、なんでも知っている。

「そうだったかもね」
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