極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
当時習っていたクラシックバレエ。
私はコンクールで賞を取り、とあるプロ公演に抜擢された。
演目は「雪の女王」。
主演は雪の女王なのだけれど、ストーリー的な主役は少女だ。
私は喜び、はしゃいで両親に報告した。
もちろん、いつも冷静にお上品にいなさいと常々教育されていた。
けれど嬉しすぎて嬉しすぎてあふれ出してしまったのだ。
認められた、任せてもらえた、私ならと言ってもらえた!
そんな歓喜が、きっと両親も笑ってくれるという希望的観測に変わってしまっていた。
そうして返ってきたのは呆れかえったため息だった。
『なんですか、それくらいではしゃいで、みっともない』
母はひどく苛ついていた。
その日のうちに教室に連絡を入れ、出演を辞退させられた。
なんで、と泣く私に母は言った。
『そんなふうに感情を露にする状態で出演してみなさい。北里の恥になります』
与えられたのはその一言だけだった。『頑張ったわね』でも『すごいじゃない』でもなく、『北里の恥』。
泣き崩れた私に兄は呆れかえった視線を投げかけ『ばっかじゃん』と冷めた声で言った。
「それまではさー、三花は落ち着いてるけど普通の女の子だったのよ」
「そうかなあ」
「そうよ。それ以来、あなたわたし以外の前で笑ってなかったの。作り笑いは別としてね」
それは自覚していた。
幼なじみの梨々花だけは、そばにいてくれたから。
「でも気が付いてる? あなた、寒河江さんの話をするとき、ほんのちょっとだけど口の端が緩むの」
「う、うそよ」
「本当よ~」
絶対に嘘。
そう言って私は梨々花を軽く睨んだのに。
「え? ああ、はい。仲睦まじいご夫婦だなと拝見しておりましたが……?」
それが何か、とアンティークショップの店主は小首をかしげる。梨々花が『先日、この子がご主人と来店したとき、どんな様子でしたか』なんて聞いてしまったのだ。
「ほらね、三花。うまくやっているどころか、ラブラブじゃないの」
「そ、そんなこと」
動揺する私に、店主が追い打ちをかけてくる。
「ご主人様も、奥様を大切に慈しまれているのがこちらにも伝わってきていましたよ。奥様が店内を見て回られるのを、大変愛おしそうに見てらっしゃって」
「ほらー。いいわねえ、新婚さん」
私は必死に表情を取り繕おうとしているけれど、首から上が熱い。本当に熱い。
「あ、の。暖房が……」
「こーら、暖房のせいにしない」
梨々花に頬をむにむにとつつかれるのを見て、店主が「ははは」と笑って続けた。
「そもそもうちは紹介制の店で、よっぽどの好事家の方にしか知られておりません。ご主人様、奥様を喜ばせたい一心で、本当にさまざまな伝手を使われたのじゃないかと推察いたします」
私は言葉を失い、商品棚の上で視線をうろつかせた。
やっぱり宗之さん、私のために探してくれていたんだ……。
理由はわからないけど。本当にちっともわからないだけれど!
「あらあら。三花ったら、“氷の女王”がかたなしよ。顔、真っ赤」
「も、もう。からかわないで…!」
肋骨の奥で心臓が暴れている。
店主は笑いながらまた宗之さんと来た時と同じようにテーブルにチャイグラスを置くと、「ごゆっくり」と店の奥の椅子に腰かける。
静かな店内に、私の咳払いの音が響いた。
悔しいけれど照れ隠しだ。
「で、どうなの。論拠は見つかったの」
「論拠?」
「寒河江さんもお父様やお兄様と同じだと断言していたじゃない?」
「それは……そうね」
私は肩を落とし、アンティークのブローチを手に取った。
「撤回するわ。彼は父や兄とは違う」
「ふふ、やっぱり。幸せそうだもの、三花」
梨々花はそう言って、反対側の棚をのぞく。
そうして「あら、雪の女王」とつぶやいた。