極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
私も彼女の横に立つ。
ガラスケースの中で温かな間接照明に照らされ、美しく輝く雪の女王。
私が宗之さんとの新居に引っ越した今もドレッサーに飾っているものとよく似ている。
けれど、彼女はここでは一人ではなかった。
雪の女王である彼女の横には、少女と少年の人形も飾られている。
ラストは無邪気で温かな少女によって愛する少年を奪われ、また氷のお城でひとりになる女王。
「――彼女には王子さまは現れてくれなかったわ」
つぶやくと、どうしてか、その言葉が氷柱みたいに胸に刺さった。
「まあね。でもね、三花。雪の女王にだって、きっと王子様が現れたわ」
「まさか」
「わからないじゃない? 物語のその後なんて、誰にもわからないんだから。アンデルセンなんて、とっくの昔に亡くなっているんだし」
「それはそうだけれど」
雪の女王ももし誰か素敵な人と出会っていたのだとしたら。
「あなたが知らないだけで、物語の外にも王子さまはいるのよ。あなたにも、もちろん」
そう言って梨々花はいたずらっぽく笑う。結婚式のときに私が言った『物語の外に王子様はいない』という言葉に対する返答のように思えた。
「王子様……だなんて、いない、わ……」
目を瞠り歯切れ悪くつぶやく私の脳内にどうしてか思い浮かんだのは、宗之さんだった。
サンルームで私に紅茶を淹れてくれる、私を大切にしてくれている、伴侶。
――なんて少女趣味!
慌てて脳内の宗之さんをかき消すも、顔にでていたらしい。
梨々花はにんまりと笑う。
「梨々花、本当にやめて」
「いやよ。面白いんだから」
「もう……」
「でも本当になんとも思っていないの? 無関心なの?」
「そ、それは。そんなことはないけれど……」
私はガラスケースを開き、人形を手に取った。
五センチほどで、家のものより少し大きい。
ひんやりとした陶器の感触がやけに心地よかった。
「寒河江さんといるとき、三花はどんな風な感情をいだいてるの?」
梨々花は興味津々な顔で私を覗き込む。
「感情……って」
「温かい? 冷たい? いらつき?」
私は微かに胸の奥がむずがゆくなる。こんな会話、生まれて初めてなのだもの。
「心臓のあたりが、なんていうか、こう、ぎゅっとなるわ」
「それから?」
「温かくて」
人形をケースに戻し、小さく息を吐く。
「うん」
「少し苦しくて」
「うんうん」
梨々花は目をキラキラさせている。私がこんなふうに迷ったりするのは珍しいから、面白いのだろうか。
私は梨々花にも戸惑いつつ、言葉を続けた。
「その、理由はまったくわからないのだけれど、目で追ってしまうときがある……ねえ、梨々花。私、自分の感情がわからないの」
私はため息をついた。
「こんなに言語化できない状況は初めてよ」
ふ、と梨々花は吹き出して私の手を取る。
「しょうがないわね。世間知らずのお姫様に教えてあげる」
梨々花はまっすぐに私を見て、ゆっくりと微笑みを作り、口を開く。
「それはね、恋よ」
一瞬言葉が理解できなかった。
恋?
「恋? まさか!」
そう答えつつも、胸の奥がドキドキとさざめいているのがわかる。
まるで全力疾走したあとかのような気分だ。
「絶対にそう。ああ、楽しいわ。三花と恋バナできるなんて!」
「こ、恋じゃないってば」
そう、恋じゃない。
絶対に恋なんかじゃない。
恋なんて、感情が漏れ出してしまう原因になっちゃう。
私が感情を顕わにしたところで、いいことはなにもない。
みっともなく、恥ずかしいことだとあざ笑われる。
北里の娘にふさわしくないと……。