極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
彼女をエスコートして、宗之さんはアフタヌーンティーの店に入っていく。
「私とは、下見だったってこと?」
思わず葉をすっかり落とした銀杏によりかかり、胸を突き刺すような痛みに耐える。
木枯らしが耳を痛いほどに冷やしていく。
枯れはてた茶色い銀杏の葉が、風に飛ばされていく。
「馬鹿にして……」
どうしてこんなに苦しいの。
宗之さんも笑っていたから?
私にはあんなふうに笑ったことがないのに。
照れたみたいに、眉毛を下げて、優しく笑っていた。
……ああ、優しくされたのも気を使われたのも、 “人前では仲睦まじくみせる” という契約のためだけだったのか。
私は無様にも、それを勘違いして。
「そりゃあ、そうよ、ね」
私は脚に力を入れ、歩き出す。石畳を行くヒールの音が冷たく響く。
そうよ、こんなことどうってことないわ。
ビジネスライクな関係を望んだのは、私。
宗之さんの私生活に口出しなんてしないわ。
感情を表に出したりもしない。
だって私は氷の女王なのだもの。
◇◇◇
翌週になって届けられた時計が入った紙袋を、サンルームでぼんやりと眺めた。
オイルヒーターがあるため、サンルームはとても温かい。
可愛らしいお気に入りの格子窓の向こうは、すっかり私好みになったイングリッシュガーデン。
花のない薔薇を見つめ、ため息とともに自分用の時計の箱を取り出した。
それを自室に戻しサンルームに戻ると、剣道着姿で肩からタオルをかけた宗之さんが猫足のテーブルの前に立っていた。
今日は休みらしく、朝から冷え切った剣道場で竹刀をふるっていたらしい。
あの人のところに行ってあげればいいのに。
ふとそんな考えが思い浮かび、そっとかき消した。
他人の恋路に口をはさんではいけないわ。
契約結婚のせいで、あの人には日陰の立場を強要してしまっているのだし。
溌溂とした笑顔が似合う、日向にいるような女性なのに。
氷柱で心臓をグサリと突き刺されたような気分になりつつ、「お疲れ様です」と声をかける。
宗之さんは振り返り、微かに目を細めた。
なんだか慈しまれているような気がして居心地が悪い。
だってそんなはずがない。ここは二人きりで、ほかに人の目はない。
それに、彼の心はあの人のものなんだから。
その証拠に、ほら、あんなふうに笑ってくれない。
やけに乾燥した口の中を気持ち悪く思いながら、目線を紙袋に向けた。
「あの、それ、宗之さんにです」
「俺に?」
微かに彼の声のトーンが明るくなったような気がして、気のせいだと振り切った。
そう、そんなはずがない。
「ええ。日頃のお礼です」
「礼なんか」
「もらってください」
私はそう言い残して部屋に戻る。
彼がどんな顔をしているか、見たくなかった。
あの理知的で冷たい瞳で、私からの贈り物を見る様子なんて、目にしたくない。
あの人からのプレゼントなら、眉を下げて優しく笑うのでしょう?
部屋に戻り、ドレッサーの一番下の引き出しの奥深くに揃いの腕時計をしまい込む。
どうせつけてももらえないプレゼントを買ったことを、それも浮かれてお揃いにしてしまったことを、激しく後悔していた。
指先までひどく冷たい。