極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
父はパートナーを連れず、一人だった。
体面的に亡き妻を思っているふりをしているのと、志津子さんはこんな格式の高い場にふさわしくないと思っているためだ。
全く理解できない行動だった。
「こんばんは、お義父さん。この度はご参加いただきありがとうございます」
「いやいや、はは。それにしたって仲良さそうにしているじゃないか。どうだね宗之さん、三花は反抗的じゃないかね」
「申し訳ありません、意図が。反抗的とは?」
「つまり女のくせに感情を顕わにしたり、いちいち口答えをしたりしていないかね? この子はヒステリー気質なんだろうな。まったく。花嫁修業で留学だのさせたのに結局自分で会社まで作るし……まあ遊びのようなものだろうから、女にはちょうどいいだろう」
私は内心唇を噛む。
宗之さんは少し黙った後、「お義父さん」とはっきりと言った。
「三花さんは素晴らしい人です。自分で道を切り開く人だ。俺は彼女を尊敬しています」
そう言って私の手を彼の大きくて温かな手で包む。
冷え切った指先に、彼の体温が染み渡るようだった。
目を瞠る。
ねえ、どうしてあなたは、私が泣きそうなとき、手を取ってくれるの。
「はっはっは、新婚だなあ。まあときには厳しくしつけるのも夫の役目ですよ」
そう言った父はほかの人に呼ばれ、さっさとそちらに向かった。
こっそりと息を吐いた私を見下ろす視線に気が付き、顔を上げる。
宗之さんの冷静な瞳に微かに感情が見え隠れしている。
いぶかしみ眉をよせかけた私に向かって彼は声をかける。
「君は子供のころ、どんなふうに過ごしていたんだ」
その声に感情が荒ぶりかけた。
もしかして、私に同情している?
確かに今の会話で、私がどう育ってきたか、その断片のようなものは見えるだろう。
父にいかに見下されているのかも。
そりゃあ、同情してしまうかもしれない。
でもふざけるなと思った。
私とはビジネスライクな関係と決め実際その通りにしているのだ。
いまさら憐憫みたいなものを向けられても困る。
「普通の子供でした」
「三花、もし」
彼がなにか言いかけた瞬間、「あらあ!」と少し甲高い声がした。
目線を向けると、最近気鋭の大手ショッピングサイトのCEOの女性が立っていた。
艶やかな茶髪をウェーブにした、艶やかな女性だ。
ざっくりと大きく胸部が開いた真っ赤なドレスが、彼女の肢体を鮮やかに引き立たせている。
「こんばんはあ。おふたりとも」
すでにお酒が入っているのか、彼女は微かに頬を赤らめこちらに向かってくる。
挨拶を返す私たちを見て、特につながれた手をじっと見つめそれから唇を歪な笑みの形にした。
「どうかされましたか」
宗之さんが淡々と、というより絶対零度を感じさせる声で尋ねる。
手はつながれたままだった。
女性はニタリと笑みを深め、手にしていたカクテルを飲み干す。
楽しくてしかたない、みたいな表情だった。
「あたし、聞いちゃったんですけど」
そう言って彼女は私たちに身体を寄せ、小さな声で続けた。
「おふたりって、仮面夫婦なんですって? 宗之さんは奥様に気持ちがないって、そう聞いたのですけれど?」