極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
私は息を止めた。
でもそれは一瞬、ほんの一瞬だ。
すぐに苦笑をあえて顔に浮かべる。
だってそんなの根も葉もないってアピールしなきゃ。
本当のことなのだけれど、ね。
けれど私より先に宗之さんが動いた。
私の肩を抱き寄せ、慈しむように腕に閉じ込め女性から距離を取らせる。
彼のかたい胸板に頭が当たり、彼のいい匂いがした。
心音も聞こえる。
私はなんだかそれに、ひどく安心してしまう。
守られているのだと、はっきりと分かった。
宗之さんは私を見てから「いいえ」と低く、はっきりとした声で断言する。
「三花は俺にとってたった一人の、大切な妻です」
「でも――」
「いい加減な憶測はやめていただけますか。失礼」
宗之さんは私の肩を抱いたまま歩き出す。
私は半ば呆然と彼に従った。
会場の視線が、こちらに痛いほどに向いている。
会場の隅、花がたくさん飾られているエリアにある椅子に私を座らせ、宗之さんは絨毯に片膝をつき私の手をとり顔を覗き込む。
まるで、王子様みたいに。
「三花。さっきの社長の言ったことは真に受けないでほしい。実は少し前、彼女に付きまとわれていた時期があるんだ。もちろん誓ってなにもなかった。おおかた、適当なことを言って俺たちを揺さぶろうとしたんだろう」
宗之さんにしては珍しい、どこか必死ささえ感じる言葉をじっと聞く。
いろんな感情がないまぜになっている。守られたことが、素直にうれしかった。
でも必死なのは、彼女の言葉がすべて真実だったからじゃないの?
社長は言っていた、『聞いた』のだと。
もしかしたら、もう宗之さんとあの溌溂とした女性のことはすでに噂になりつつあるのかもしれない。
だからこそ、こんなふうに衆目を集める場で王子か騎士のように跪いてみせている。
人前では仲睦まじい夫婦でいるという、契約の文言の通りに。
宗之さんは手を取ったまま立ち上がり、私の耳元でささやく。
「三花、なにも心配しないでくれ」
その言葉が、本当のことみたいで心臓がばかみたいに拍動している。
真実彼が私を想って出た言葉のように思えて、とても苦しい。
彼は私に笑いかけないのに、感情などなにも向けられていないのに、私たちは契約通りにしているだけの仮面夫婦なのに。
嬉しい、切ない、悲しい、悔しい。感情がどろどろでぐちゃぐちゃだ。
私のことなんかどうでもいいくせに、優しくしないでほしい。
あとで辛くなるから。
……でも、どうしてつらくなるのかしら。
私は彼にエスコートされ立ち上がりながら、そんなことを思った。
◇◇◇
帰宅してすぐ、私は彼に別居の提案をした。