極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
「そうおっしゃるなら、お世継ぎのこともお考えになっては」
「却下だ。彼女が望んでいないと言っただろ」
「そのおっしゃりようですと、宗之様はお子様が欲しいのですか」
つい黙ってしまう。
夢想した彼女と築く未来は、脳裏にやきついてしまっていた。
笑いあい、同じベッドで眠り、朝食を食べ、予定がなければ約束などせずとも一緒に出掛ける。
散歩ていどのことでいい。
手をつないでともに過ごせたら、それはどんなにか幸福なことだろう。
「それならば、三花様に打診してみればよいではないですか」
「だめだ。出産なんか、どれだけ安産であろうと彼女に一方的に負担がかかることだろ? 彼女が望むならともかく」
俺は小さく息を吐く。
俺はただ、三花とともに生きていきたいのだと、ようやく気が付いた。
それが一体どんな感情の発露なのかは、わからないまま。
「そういえばハームズワース様よりお手紙お預かりしておりますが」
「またか」
俺は眉間を寄せそうになる。まったく、いつまでつきまとう気なんだ。
「ハームズワース様、まだ未練がおありなのですねえ」
「彼女と俺が交際していたかのような言い方はやめてくれ」
俺はため息をつき、アメリア・ハームズワースに付きまとわれた一年間について思い返す。
イギリスの大学へ留学していたころの同級生で、なにかのグループワークの際に一緒になった。
その際、当初は俺のことをアジア人と見下していた彼女をディスカッションでやり込めたらしい。
全く記憶にないが。
なにしろそういったことは日常茶飯事だったのだ。
それがきっかけで、というかなにがどうなっているのかわからないが、彼女は俺に惚れたらしい。
気が付けば言い寄られベタベタ接されて、君とはそういう関係になりたくないとハッキリ告げると半ばストーカー化した。
日本のように『告白』文化がない国だから、下手をすると『付き合っていたのに振られた』と思っている節もある。
幸い、帰国時に縁が切れたと思っていたが、なぜだか三花と結婚してから再び連絡をよこすようになったのだ。
メールも電話も無視していると、会社宛てにエアメールが届くようになった。
「『わたしがあなたを諦めたのは、氷のようなあなたがほかの女性にも同じように接していたから。あなたが誰のことも愛さないと思ったからよ』だそうです」
読み上げる谷垣に肩をすくめる。
「とてつもない執着だよな」
「宗之様はどなたをも惹きつけますからねえ」
「だったらよかったんだが」
三花は違うようだ、と内心つぶやいて思う。
彼女の纏う雰囲気は、冴えた冬の朝のようだ。
降り積もる美しい新雪。
そういうところが好ましいが、俺には甘えてほしくもある。
「初雪はいつ頃だろう」
つぶやきながら秋空を見上げる。
三花と雪を見たいと、ふとそう思った。
◇◇◇
叔父である義之さんから「婚約者を紹介する」と呼び出されたのは、その日の午後のことだった。
三花に時間があればディナーに誘いたかったのに、と内心不満に思いつつ、義之さんが指定したホテルレストランに向かう。
その個室で、俺は久しぶりに目を丸くした。
「師匠」
「久しぶりだね、宗之くん。元気そうだ」