極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

 にかっ! とものすごく明るい笑顔を見せてくるのは、俺が小学生から中学あたりまで指導してくれていた師匠、桜子さんだった。
 たしか義之さんと同じ歳だが、小柄なのもあってか相変わらず若々しい。
 剣道の腕はとてつもなかったが。
 なにしろ国体三連覇だ。
 彼女は警備員として勤務しつつ、実家の剣道場で児童の指導に当たっていた。
 外国での剣道普及に携わるため、数年前に渡米していたはずだった。

「ご無沙汰しております。しかし師匠、どうしてこちらに」

 言いながら俺はどうしてここに義之さんに呼び出されたかを思い出し、椅子に座りつつ「まさか」と義之さんの顔を見つめた。

「ははは、久しぶりだな、お前のそんな顔は」
「いや、驚きますよ。まさか義之さんの婚約者が師匠だとは」
「よしなさい、宗之くん。もうわたしは君の師匠ではないのだから」
「いえ、師匠は師匠です」

 そう言うと、師匠は大きく破顔した。

「あはは、ありがとう。実は米国で義之さんと仕事で関わってね。生涯独身のつもりだったびだけれど、口説き落とされてしまったんだ」

 照れもなくあっけらかんと言う師匠の横で、百戦錬磨のはずの義之さんが照れて微かに頬を赤くしている。
 俺は「そうでしたか……」とつぶやくしかなかった。

「まあ、ちょうど怪我もあって心細かったのかもしれないね」
「怪我? 師匠、お怪我を?」
「ちょっと靭帯をね。まあ、無理しなければ歩けるほどには回復しているよ」

 師匠がパンツスーツの裾を軽く上げると、かなりしっかりとしたサポーターで保護されていた。

「無理されないでくださいね」
「ん、ありがとう。まあ、そんなわけで今に至るんだ。宗之くんの叔父さんだとは思わなかったがね」

 ちょうどそこでアミューズが運ばれてきて、俺と師匠との久しぶりの再会は和やかに進んだ。
 コースがメインの子羊のロティに進んだころ。

「失礼、会社からだ」

 義之さんが電話で席を外したすきに、師匠が「相談してもいいかな」と目を細めた。

「なんでしょうか」
「義之さんにクリスマスプレゼントを贈るとしたら、なにがいいと思う?」
「クリスマスプレゼントですか」
「ううん、わたしが思いつくのは筋トレグッズくらいしかなくてね」
「なるほど」

 俺は腕を組み内心で首を傾げた。
 義之さんの欲しいものか。
 たいていのものは自分で手に入れる人だからなあ。

「師匠からなら、なんだって喜ぶと思いますよ」
「そういったおためごかしはいいんだよ、宗之くん。わたしは具体例を相談しているんだ」

 む、と沈思したものの思いつかない。結局、少し先に一緒に買いに行こうという話になった。

「悪いね」
「いえ。なにか俺のほうでもリサーチしておきます」
「ありがとう。ああ、ところで、遅くなったけれど結婚おめでとう。義之さんが言うには相当な美人らしいけれど」
「ええ、綺麗ですよ」
「写真はないのかな」
「写真」

 俺はぽかんとしてしまった。そうか、俺は三花の写真を持っていない。
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