極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
◇◇◇

 東京に初雪が降った日のこと。
 俺はランチミーティングを老舗ホテルのレストランで行ったあと、ひとり一階にあるカフェラウンジへ向かった。
 ここのカフェは、三花の会社から茶葉を仕入れているはずだ。
 飲んで、感想でも言えば会話の糸口になるのかもと期待したのだった。

 長いエスカレーターからは、ロビーとラウンジを一望できた。
 嵌め殺しの窓から雪がちらちら降っているのが見える。
 すっかり葉を落とした銀杏と、冷たい中凛と咲く姫椿に雪片が積もる。
 すぐ溶けてしまうだろうけれど、この姫椿のように可憐な三花に会いたかった。
 一緒に雪を眺めたかった――と、三花がいたような気がして目を凝らす。

「三花」

 いた、と頬が緩んだ。どうしてここに? 年末のあいさつ回りだろうか。

 彼女の目元が、きらりと煌めいた。
 泣いている?
 エスカレーターはゆっくりと進む。
 駆け下りたくて仕方ない。俺の妻が泣いている。
 だが目の間には仲良く手をつないだ親子連れがいる。
 息を吐き視線を彼女に戻した先で、三花の手が動く。
 彼女の手は向かいの男の手に触れた。

「――は?」

 息が漏れる。向かいに男がいたことにようやく気が付いたのだ。
 男のことは知っている。三花の秘書だ。

 毎朝、俺の妻を迎えにくる男だ。

 心臓が冷たい炎に包まれる。
 テーブルの上には薔薇の花束がある。
 三花は泣いていた。
 でも悲しい顔ではなかった。

 じゃあなんで、男に花なんかもらって泣くんだ?

 すべてが初めての感情だった。
 収集がつかない。
 苦しい。
 俺の身体なのに思う通りに動かない。

 そんな男に涙を見せるな。
 俺以外の男に!

 エスカレーターが着くやいなや駆け出した。
 声をかけようとした瞬間に彼女は言う。

「離婚したほうがお互いのためかもしれないわね」

 ひゅうっと息を吸い、俺はこの感情がやはり恋なんかではなかったと気が付いた。
 そうだ、これは。

「俺は君を愛しているから」

 ――愛だ。
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