極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

 三花は目を見開き、それから「そうですか」と小さくつぶやく。
 そうしてまた、さっきのように唇を引き結んだ。なにか我慢して、耐えるように。
 おおかた、以前パーティーでされていたような噂をまた小耳にはさんだのかもしれない。
 内心舌打ちして、出所を確かめねばと決める。
 三花を不安にさせたくない。

「わ、かりました。あの、送ってくださってありがとうございます」

 そう言って降りようとする三花の手首をつかむ。

「あの、宗之さん?」

 彼女の氷のような仮面は、もう半分砕けていた。
 俺が本音を伝えたからだろうか、そのせいで動揺が続いているせいだろう。
 時間をおいては、きっと冷静な彼女は再びあの仮面を完璧なものにしてしまう。
 揺さぶり続けるしかない。俺は「ふむ」と考えてからそっと彼女を引き寄せる。
 もう気持ちもすべて伝えたのだから、遠慮の必要はないだろう。

「キスしてもいいだろうか」
「っえ、え、き、キス」

 三花の怜悧だったはずの双眸が初心に揺れる。
 照れているのだと誰にだってわかる仕草だった。目元が赤い。

「契約書には性行為はしないとは書いてあるが、キスに関しては特に明記していない」
「それはそうですが」

 三花は何度も目を瞬く。
 そのたびに見え隠れする美しい瞳は濡れている。
 半泣きというか、照れているのだとわかった。

「唇がいやなら、頬にならいいか」
「ほ、頬くらいなら」

 留学経験があるらしい三花は、それくらいならと思ったようだった。
 助手席にきちんと座りなおした彼女の肩を抱き、そっと頬に唇で触れる。
 温かい。

 俺の氷の女王は、ちっとも冷たくないな。

 そう思いながら離れようとして、彼女の耳がさっき以上に真っ赤になっているのを見、衝動が身体を動かした。
 理性を感情が上回るなんて、三花は俺をどうにかしてしまう何かを持っているのだと思う。
 引き寄せて唇以外にキスを続ける。
 額に、こめかみに、鼻先に、頭に、そうして熱くなった耳にも。
 そのまま「愛してる」と囁く。
 すっと離れると、呆然とした三花は頬どころか耳まで真っ赤にして俺を見上げている。
 つい「ふ」と笑った。色白だから赤くなるのがすぐわかるんだな。

「な、なんですか。頬だけだって……」
「いや、初心だなと思っただけだ」
「初心だなんて」

 かああ、という擬音がついてしまうだろうくらい、彼女はさらに頬を染めている。

「かわいい」

 口のそばにもう一度キスをすると三花は手で頬を押さえ、「失礼しますっ」と車を降りていった。
 俺はハンドルにもたれ、三花に好きになってもらうにはどうしたらいいのだろうと考える。
 あの反応を見ていると、どうやら嫌われてはいないようだけれど。
< 56 / 89 >

この作品をシェア

pagetop