極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
普段は冷静で綺麗な声が俺が彼女に触れるたび乱れ、薄氷のように美しい瞳が熱に揺蕩う。
ゆっくりと離れる。
白い肌に咲いた花のように赤い跡にひどく情欲をかりたてられ、俺は自然とそこをべろりと舐める。
「っあ、宗之さん」
「好きだ」
俺はそう繰り返しながら首筋を舐め、鎖骨にたどり着く。
カットソーからのぞくそれはいらやしいものではないはずなのに、どうしてか俺を煽り立てる。
「三花……」
呼ぶ声が微かに掠れた。鼻先で鎖骨をくすぐると、三花の顎が上がる。
白い喉元があらわになった。
三花にいると俺はどんどんおかしくなってしまう。
理性がボロボロ零れ落ちて、ぐちゃぐちゃになる。
鎖骨を甘噛みすると、ひどく淫らに三花は身体を震えさせ、「や、っ」と声を上げる。濡れた声に知らず頬が上がった。
「意地悪なほうが感じる?」
「か、感じてなんかっ」
顔を覗き込むと、真っ赤にとろとろになった三花が甘い顔で俺をにらむ。
にらむというより、にらみきれておらず、ただ眉を寄せただけ。
つい笑うと、三花は困惑いっぱいに俺を見て口を開く。
「宗之さんって、笑うんですか」
「笑うよ」
俺は三花の前髪をかきあげ、うっすらと汗ばんだ額にキスを落としながら言う。
「好きな女の前でくらいは、笑う」
びくっと三花の肩が揺れた。
彼女の顔を覗き込むと、その瞳がかすかに寂しそうで困惑する。
「三花、なにかあるなら……」
「な、なにも。なにも……ただ、極氷なんて言われてる人が……私に笑うなんて思ってもなかったので……」
三花が珍しく口籠もりながら説明をし、納得いかないまでも頷いた。
なにか三花のなかに懸念があるのか。
俺の感情が信じられない、その理由が……俺はそれを教えてもらえるほどの信頼を、彼女から得てはいない。
それだけが厳然とした事実として俺と彼女の間に存在した。
「……なら、信じてもらえるよう尽くすしかないな」
俺がつぶやくと、三花はきょとんと首を傾げた。
いつもの何倍もあどけない仕草に胸がかきむしられる。
俺は自分の中の情欲と戦いつつ、ゆっくりと身体を彼女から離す。
名残惜しくてしかたないけれど。
「三花、俺はもっと君がほしい。だから婚前契約を破棄しよう。ずっと君といたいんだ」
髪をひとふさすくいそう言うと、彼女はハッとしたように身体をこわばらせた。
「あ、の。薔薇、ありがとうございます、うれしいです」
三花は細い声で言うと、花束を抱え俺から逃れるように立ち上がる。
するりと指先を滑り落ちていく滑らかな髪の毛──そのまま彼女はぱたぱたとサンルームから出て行った。
俺は指先で自分の唇を撫で、三花の感触を思い出す。
愛おしさで胸の奥がほわほわと温かい。
情欲は熱くたぎったままだが、必死で押さえつけた。
三花に信頼してもらえるよう、距離を縮めたい。
夫として頼ってもらえるように、感情を返してもらえるように。
俺はサンルームを足早に出ると一生懸命に階段を上がる三花に追いつき、彼女の手を取る。
「宗之さん?」
「クリスマスマーケットに行かないか」
「クリスマスマーケット……?」
振り向いた彼女の首筋に浮かぶ、俺がつけた赤い跡に、独占欲のどこかが満たされる。
「ああ。ドイツでも、フランスでも、どこでもいいんだけれど。年末から、新婚旅行に行かないか。急かもしれないが」
「でも」
「仕事の都合はついていると吉岡さんから聞いているが」
さきほど自分からも謝罪をかねて連絡を取っていた。
彼はかえって恐縮していて申し訳ないことをしたなと思う。
なにしろ思い切り睨んでしまっていたから。
その彼から三花の年末年始の都合は聞いていた。
クリスマス以降の仕事は調整可能だと返答が来ていたのだ。
「行ったことはあるか?」
「あ、まだ……」
「君の好きな雰囲気だと断言できる。ついでにあちらのアンティークショップをめぐってもいいだろうな。どうかな、たのしいと思うんだが」
自分のできる最大限の口説き文句だった。
それでも渋る彼女に微かに眉を下げると、三花はハッとした顔をしておずおずと頷く。
ガッツポーズなんて、生まれて初めてしたいと思った。
◇◇◇
三花の友人、西園寺梨々花が俺の会社を訪ねてきたのはその数日後のことだった。
「突然申し訳ありません。お忙しくなかったですか」
「妻の友人の訪問を断るほどではありません」
応接セットに向かい合って座る。
谷垣が淹れたコーヒーを口にして、「とはいえ」と西園寺は口を開く。
「お忙しいでしょうから、手短に。三花のことです」
それ以外に用事はないだろうから、俺は黙って続きを待ちコーヒーを味わう。
「あの子がああもかたくなになった原因をご存じですか」
「いや」
西園寺は手短に三花の過去について語った。
両親によって奪われた主役の椅子。
そして父の恋人への扱い、不倫三昧の兄。
とうてい信用できない家族たち。
以前から、彼女の父と兄に思うところはあった。
ただ、彼女は同情を欲していなかったからあれ以上追及はしなかったけれど、男性不信気味なところはあるのかもしれない。
「三花は本当はお姫様に憧れている、普通の女の子なんです、……ま、女の子というには大人かもしれませんが」
お姫様か。数日前の夜を思い返した。自嘲気味に自分を氷の女王だと評した三花。