極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
ふと疑問に思う。
「なぜわざわざこんな話を?」
「あの子の王子様になってくれないかなと思ったんです。助けてあげてほしい」
そう言った後、西園寺は続ける。
「うちの両親、わたしが小学一年生のときに離婚しているんです」
「そうですか」
「動じないですね。さすが極氷」
西園寺は笑い、コーヒーカップを優雅に傾ける。
「わたしと三花は幼稚園からの同級生なんです」
彼女たちが通っていた学校は、幼稚園から大学までのエスカレーター式女子校。
中高等部の一般枠入試がない、完璧に純粋培養される閉ざされた箱庭だ。
「あんな学校で親が離婚するなんて、普通はないことなんです。母に引き取られて、苗字も変わって。みんな育ちがいいから、いじめなんておきません。ただ遠巻きにされるだけ……でも、三花は違った。いつも通りに受け入れてくれた」
一拍置いて西園寺はソーサーにカップを置く。
「わたしの負けん気の強い性格もあって、なんとなく浮いた状態は高等部卒業まで続きました。でも三花は私と友人でい続けました。きっとさりげなく、わたしと距離を置くべきだと……下手をすれば教師からも忠告されたでしょうに。それどころか、全生徒からあこがれの的にされていた彼女は生徒会長に選出されたんですが、なんとわたしを副会長に任命しました」
西園寺は目を伏せ笑う。
「わたしは守られました。三花の親友であることは、あの箱庭でそれだけの効力を持ちました。生徒会では彼女以外にも、気の置けない友人もできた。北里三花という庇護のもとで楽しい学園生活を送りました。でも、いま……悔しいですが、わたしでは三花を守れない」
きゅっと膝の上で西園寺は手を握った。
「そもそも三花があなたとの結婚を了承したのは、会社を守るためです。三花が情熱を注いだあの子の会社。学生時代に起業したから、わたしもそばで見ていたんです。すごく楽しそうで、部下たちにも慕われてて。けれど今も人質に取られているような状態です。なにかあれば、あの会社は北里本家の会社に吸収合併されてしまうでしょう。三花のお父様やお兄様からすれば、三花のやっていることなんてお遊びでしかないんです」
西園寺は悔しそうに眉を寄せた。
なにかあれば……つまり、北里の家に不都合があれば、ということだ。
要は俺と離婚して寒河江との協力関係にひびが入るなどのことだろう。
そのために三花は “人前では仲睦まじい夫婦” であることを望んだし、三年は同居してくれと要請してきたのだ。
三年以内に自分でなんとかする気だったのだろう。
頼ってくればいいのに、と胸が痛んだ。三花を責めたいのではなく、頼られない自分が情けない。
「わたしもいまそれなりの立場にいますが、北里本家に立ち向かえるほどの力はありません」
「だから俺に?」
「それだけじゃありません。あの子、きっとあなたに惹かれています。その、勝手にこんなこと言ったら怒られるかもしれないけれど」
カップをソーサーに置く。三花が俺に惹かれている?
動揺が指先に伝わり微かにコーヒーが波打った。西園寺がふっと笑う。
「あなたも三花のこと大切に思ってくださってるでしょう」
「もちろん」
否定することではないので端的に返事をする。西園寺はうれしげに目を細め「よかった」とつぶやいた。
「あの子は幸せになるべきだもの」
俺はうなずき、しっかりと西園寺の目を見た。
「三花は俺の妻です。なにがなんでも俺が守ります」