極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

 私はアイラインとシャドウで目つきを少しきつめに変える。
 私はきちんとメイクをしていないと「おっとり」して見える顔つきなのだ。
 両親によく咎められていた。気持ちが弛んでいるから顔にも出るのだと。

 特に目には感情がよく出てしまう。隠さなくては。
 この顔に浮かぶありとあらゆる感情を、すべて隠してしまわなくては。

 氷で固めて、溶け出してしまわないように。

 マスカラを塗り、チークを入れてリップで仕上げをする。
 鏡の中の私は、笑ってしまうほどに生前の母にそっくりだった。
 常に冷えていた、母の瞳。
 目つきは変えず、唇に笑みを浮かべる。そうすると感情のこもらない笑顔になる。

「練習、完了。今日も完璧」

 私は呟き、ドレッサーの隅に飾ってある小さな陶器の人形に触れる。数年前、ヨーロッパの蚤の市で手に入れた、五センチもない、小さなアンティークのものだ。アンデルセンの童話「雪の女王」をモチーフにしたものだと思う。

 仲の良い少年少女。けれどある日、少年は悪魔の鏡の破片が胸に刺さって、冷たい性格になってしまう。雪の女王に気に入られ攫われた少年を、少女は追いかける。
 少女の涙で悪魔の鏡は溶け、少年は温かな心を取り戻す……。
 私の人形はその「雪の女王」のもの。
 真っ白な肌に銀色のティアラ、アイスブルーのドレス。とても綺麗で一目惚れしたのだ。

「……ハッピーエンドのそのあと、あなたはどうなったのかしら」



 冷たいおんなは、幸せになれないのかしら。


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