極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
西園寺が帰った後、谷垣に命じ、三花の父である北里会長とのアポをとった。
夜ならばと言われ了承したところ、指定されたのは銀座のクラブだった。
「やあやあ婿どの! 先にいただいていますよ」
VIPルームで俺に向かって、北里会長は重厚なグラスを上げた。
シャンデリアの光がウイスキーと丸い氷を照らす。
俺は会釈しながらボックス席に少し距離を取り座った。
会長は左右にキャストを座らせ、満悦そうに肩を揺らす。
そのうちのひとりは、品のある訪問着姿のいわゆる“ママ”だ。
余裕たっぷりにあだっぽい視線を向け挨拶をしてきた彼女から、名刺だけは礼儀として受け取る。
「宗之くんはどんな女性が好みなのかね? ここの女性は美人ぞろいだよ。彼女なんかひどくグラマラスなんだ、着物を着ているのがもったいないね」
ふふふ、と彼の横にいたママがさざ波のように笑う。
会長の欲まみれの視線にも嫌悪感を出さないのはさすがプロとしか言えない。
「俺の好みは妻だけですよ。ですので俺にはキャストは結構です」
横に立っていた黒服が戸惑ったようにママを見て、彼女は「そうおっしゃるなら」と鷹揚に笑った。
「新婚は面白くないなあ」
つまらなさそうな会長に「単刀直入に」と視線を向ける。
「おお、なんだね」
「三花の会社に手を出さないと誓ってもらえませんか」
「ほう」
会長は脚を組みなおし笑った。
「三花に泣きつかれたかね。まったく、女というのは」
「いえ。三花からはなにも。これは俺の勝手です」
三花を守りたいというエゴだ。
会長は不思議そうに眉を上げた。
「あんな会社、あってもなくてもかまわないだろう。なぜ守る」
「三花の作ったものだからです。ゼロから一を作る苦労は、俺には想像もつきません」
「古きを継ぐ苦労もある」
「一概に比べられるものではないと」
会長は鼻白んだ。
「なんだ、結局そんな話か。つまらん、たまにはハメを外してはどうかね。三花はつまらん女だろう? ここの女性たちとは比べ物にならない」
そう言ってキャストの肩を組みにやにやと笑った。
俺は嘆息し彼を見る。
「三花は最高の女性です。俺にはもったいないほど」
会長とにらみ合う。やがて会長は気まずそうに目をそらした。
「お義父さん。もしあなたが三花の会社に手を出したならば」
「そうなったらなんだね」
「俺は北里グループごと買収します」
一瞬VIPルームがシンとなった。目を丸くした会長が「は」と乾いた笑いを漏らす。
「は、ははは、は、まったく面白い冗談を」
「冗談ではありません。本気です」