極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
◇◇◇

 SNSにも会社にも相変わらず嫌がらせが続いていた。直接的な接触はなかったものの、におわせられる文章は、差出人がかつて宗之さんと交際していたことと、まだ恋心を抱いていることと、私に奪われたと、盗まれたと確信していることが伝わっていた。
 どうしても思い浮かぶのはあの溌溂とした女性。

 私はあの笑顔を奪ってしまったのだろうか……。

「社長、そろそろなにかしら対処されませんと、エスカレートしてきていますよ」

 吉岡の言葉に私はどう返すべきか判断が付かなかった。
 そろそろ決断すべきだ――というのはわかっている。

「会社の口コミにまで社長について書き込みが始まっています。脅迫ともとれる文章も増えてきました。それどころか、今回は隠し撮りされた写真まで送られてきたのですよ!」

 吉岡は私のデスクに並べられた隠し撮り写真を一瞥し、眉間のしわを深くした。数日前、会社に入るところのものだ。私はそれを見ながらふうと深く息を吐く。

「そう、ね」

 思ったよりも細い声になり、内心気合を入れなおす。
 気弱なところを部下に見せて、不安にさせてはいけない。吉岡はぐっと唇を噛む。

「このままでは、本当に社長に危害が加えられかねません。せめて寒河江社長に相談をされてはいかがでしょう」

 私はハッと顔を上げた。

「大丈夫よ」

 声が強張ってしまった自覚はある。けれど止められなかった。
 吉岡は私の顔をまじまじと観察するように見つめる。
 私はそっと目を閉じ、氷をイメージした。大丈夫、感情は顔に出ていないはずよ。
 クールに努めよう、感情に振り回されないように。
 そう思っていたのに、帰宅するなり渋面の宗之さんに出迎えられた。
 サンルームではなく、リビングで腕を組んで立っていたのだ。

「なんですか」

 宗之さんは単純に怒っているのとはまた違うようだった。
 そんな感情的な雰囲気にたじろぎそうになりつつ、しいて顔に出さぬようすまし顔を張り付ける。

「それは俺の台詞だ」

 珍しく言い返してきた彼は私に近づいてきてじっと私を見下ろす。
 表情は陰になってよく読めない。
 精悍な瞳が感情的に細められていた。この人がこんなに激情を表に出すなんて―― “極氷” 寒河江宗之が?

「嫌がらせをされていたそうだな」
「いいえ?」

 反射的に否定の言葉が口をついた。一体どこで知ったの? まさかあの女性から?
 肋骨の奥が痛い。心臓に刺さった氷柱のような感情の正体がようやくわかった。

 嫉妬だ。
 私、あの人に嫉妬しているんだ……。

「三花」

 宗之さんは眉を強く寄せた。目を逸らしたくなるのを必死に耐える。
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