極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
「……あの女性はなんだったんです」
「あの女性とは?」
私は嘆息し、あの日見た溌溂とした女性について話す。
一瞬ぽかんとした宗之さんの顔色が変わる。こんなにさあっと変わるのだとこんな時なのに目を瞠ってしまった。
「違う。まさかそんな誤解を……見られているとは、じゃない。やましいことなんかひとつもない」
私は小さく首を傾げた。思っていた反応と違いすぎて思考が停止してしまったのだ。
「あの人は俺の剣道の師匠だ」
「師匠?」
想定外の答えにオウム返ししてしまう。宗之さんはうなずき、そのまま私を抱きしめた。
スーツのひんやりした感触に、彼が暖房も入れず私の帰宅を待っていたのだと知った。
「であると同時に、俺の叔父の婚約者でもある」
「婚約者」
また繰り返した。師匠で婚約者?
「し、師匠というには……お若いのでは。宗之さんとそう変わらない年齢に見えました」
「あの人は小柄で若く見えるからな。実年齢は四十代後半だ」
ぽかんとする私に宗之さんは言葉を続けた。
「師匠はいま足首の靭帯をケガしていてリハビリ中なんだ。あの日は叔父のところに送っていく最中、足が痛んで歩けなくなってしまって、それで支えていただけなんだ」
「……え、っ」
身体を強張らせ彼を見上げる。……彼がくだらない嘘をつくような人じゃないことはわかっている。なら、これは真実だ。
宗之さんは私の頬を撫でながら「すまない」と繰り返した。
「誤解させてしまって申し訳ないことをした」
「い、え」
声が微かに震えてしまった。だってひどい勘違いを……。
「こちらこそ、申し訳……ありません」
「いや。……もしかして俺を受け入れてくれなかった理由は、それか」
私はきゅっと唇をかみしめた。ハッとした彼は「本当に?」と私の顔を覗き込む。
「それは……」
「ほかにも気がかりがあるなら言ってくれ」
宗之さんの精悍な瞳は、まっすぐ真摯に私をとらえていた。
「不安がなくなるくらい愛し尽くす自信があるから」
感情が荒波のようにぐわっと高まって、同時に肋骨の奥にあった氷柱や氷がぶわりと溶けた気がした。頬が濡れていてなにかと思えば、宗之さんが優しく何度も指の腹で撫でてくれた。
「三花、泣くな。愛してる。君だけだ」
宗之さんの掠れ気味の低い声が、ひどく甘くなる。私を甘やかす声が優しく鼓膜を揺らした。ぽろぽろと涙がこぼれて止まらない。
彼は私を抱き上げ、サンルームに向かう。
オイルヒーターをつけ私を抱いたままソファに座った。
彼の膝の上に座らされ、きゅっとその逞しい腕に閉じ込められる。
「ご、めんなさい」
小さく声を出した。
「私、失礼な勘違いをしてました」
「いや、気軽に聞けるほどの信頼を得ていなかった俺が悪い」
「あなたは悪くないんです、ただ、私が」