極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
屋台でウインナーや砂糖をまぶした揚げパンのようなものを買い、お腹いっぱいになった私たちはかわいい小物の出店を見てそぞろ歩く。
「わあ、かわいい人形。ああ、こっちにも」
アンティークではなく新しいものがほとんどだったけれど、どれもこれもかわいらしくて、寒さも忘れ、買えるだけ買い込んでしまう。主にいつも通り、小さいサイズの陶器人形だ。
同じ店で小花模様が刺繍された赤いリボンを宗之さんは買い求め、私の髪に器用に結んだ。
「こんなかわいらしいもの、似合わない気がします」
「まさか。君は世界一かわいいんだから似合うにきまってる」
当たり前のことを、と言わんばかりにサラリと言われ、頬がほんのり熱くなる。ふ、と宗之さんは笑って私の髪にキスを落とした。出店の店主にスイスなまりのドイツ語でからかわれ、頬が熱さを増した。
「ああ、楽しかったです」
石畳の上を彼と並んで歩きながら頬を緩めた。
「ほんとうに誘ってくださってありがとうございました」
「いや、楽しんでくれてよかった」
荷物のほとんどを持ってくれた宗之さんは、私の右手をしっかりと握ってほんのりと頬を上げた。私は彼を見上げ、首をかしげる。
「あの、でも私だけ楽しんでしまって……宗之さんはいいのですか。なにかやりたいことありませんか」
「俺? 俺は君といるだけで最高に楽しいし幸せだ」
そんなことをあっさりと言う。私はなんだか泣きそうになる。幸せで、だ。
そんな幸福に浸っているのに、吹いてくるひんやりとした風に「くしゅん」とくしゃみをしてしまった。宗之さんが私を見下ろし目を丸くする。
「な、なんですか?」
「いや。君、くしゃみまでかわいいんだな」
「くしゃみがかわいいはずありません……!」
そう言うと、宗之さんは楽しげに肩を揺らす。
「やはり冷えているな。そろそろ向かおうか」
「あ、ホテルですか」
空港から荷物は直接そちらに届けられているはずだ。
私は内心ドキドキしていた。というのも、果たして同じ部屋をとっているのか、それとも別の部屋なのかわからないのだ。すべて宗之さんが手配してくれたから……。
いちおう、まだ婚前契約自体は破棄されていない。
いずれ新しく作り直したほうが、とは考えているのだけれど、あれ以来話題にのぼらない。
宗之さんは柔らかに目元を下げた。
「ホテルというか、城だ」
「……お城、ですか?」
「ああ。今回は城にしたんだ」
私はものすごくキョトンとした顔をしていたと思う。城って、あのお城?
頭に浮かんだのはなぜか姫路城だったのだけれど、まさかスイスにそんなものあるはずがない。
彼に手を引かれるまま広場の先に向かうと、黒塗りのセダンが待っていた。降りてきた運転手に宗之さんは流ちょうなドイツ語で挨拶を交わした。
『ようこそいらっしゃいました、奥様』
『え、ええ……』
なにがなんだかわからない。ぽかんとしていると後部座席のドアを開かれる。とりあえず座ると、暖房が温かくてホッとした。座席もヒーターが入っているのか温かい。しっかりとしたブーツを履いていたけれど、足の指先まで冷え切っていたようだった。
「驚かせたくて秘密にしていたんだ。すまなかったな」
横に座った宗之さんに言われ、私は目を瞬く。
「今日の宿泊先がお城だってことですか?」
宗之さんが唇をいたずらっぽく上げて、私は内心で飛び上がる。お城に泊ったことなんて、今まで一度もない!