極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
朝が来たと知ったのは、すっかり日が昇ってからだ。スイスはこの時期日の出自体が八時ごろだから、かなり寝過ごしたと言ってもいいだろう。分厚いカーテンの隙間から、陽がさしているのが見えた。
「起きなきゃ」
そう呟き身体を起こそうとして、ベッドに再び沈み込んでしまった。
「痛い……」
身体の変なところが痛かった。な、なにこれ……と、昨晩のことを思いだす。
彼に求められて、それがうれしくて……そこから先の記憶がない。いまだって裸のままだ。
身に着けているのは、真っ白なシーツについた手に嵌るふたつの指輪だけ。
「宗之さんは……」
部屋を見回すも、姿がない。どこに行ったのだろうか。
寝室の奥にあるバゲージラックに私のトランクが見えた。
「とりあえず着替えなきゃ」
呟きながらも昨夜をまざまざと思い出すと恥ずかしさが押し寄せ、枕に顔を埋めたくなる。
「起きたのか」
突然の声にびくっと身体を揺らした。
シーツを身体に巻き付けながら振り向くと、バスローブ姿の宗之さんがタオルで髪を拭きながらこちらに歩いてくる。
「大丈夫か。もう少し寝ていてよかったのに」
大丈夫です、と答えかけて敬語はやめたんだったと思い出す。
「ううん、もう目がさめちゃったし」
私がそう言うと、宗之さんは髪の毛を拭く手を止め、じっと私を見つめる。
「な、なあに?」
「敬語じゃない君がものすごく新鮮で可愛くて心臓が止まりかけただけだ」
さらっとそんなことを言い、彼はベッドに乗ってくる。
「宗之さん?」
「すまない三花、君が可愛すぎるのが悪いんだと思う」
軽く肩を押され、私はシーツに逆戻り。
「な、なななななにをするの」
「なんだと思う?」
いたずらっぽく微笑まれ、私は再び彼にすっかり甘く溶かされていく。
「もう無理……」
朝から再び抱かれ、すっかり脱力した私を宗之さんは横向きに抱き上げる。
ぎりぎりあった理性で胸元を隠すと、「ふは」と宗之さんは吹き出した。
「さんざんさらけ出しているのに恥ずかしいのか?」
胸にたくさん散ったキスマークを見ながらからかわれる。
「だ、だって」
むっと唇を尖らせた。こんな子供じみた仕草を彼の前でするだなんて。宗之さんは鷹揚に笑い足を進める。
……それにしても、どこに向かっているのだろう。
疑問はすぐに解けた。寝室内のバスルームだ。
石造りの浴槽にはたっぷりとお湯が張ってある。彼はバスチェアに私を抱えたまま座り、鼻歌でも歌いだしそうな顔でシャワーを手に取る。
「宗之さん? なにを」
「疲れているだろうから、洗ってやる。気にするな」
「気にしま……っ、気にするよ。やめて」
軽く彼を睨む。けれど彼はひるむどころか、目尻をこれでもかと下げる。
「かわいい」
睨む顔すら、彼にとっては可愛くて仕方ないらしい。
「すまないが、三花。この旅行中だけでいいから、君を好きなだけ甘やかさせてくれないか? 頼む」
「でもっ」
「城をやるから」
「お城はいらないってばあ……っ」
抵抗むなしく、彼は本当にうれしげに私の身体を余すところなく、ほんとうに全部洗い上げ、そうして湯船につかる。
「いい天気だな。川沿いを散歩してもいいし、城でのんびりするのもいいな」
「うん……」
私は力なく彼にもたれかかりながら、窓の外を見る。身体がオレンジ色の小鳥が窓の桟に止まる。
「かわいいな、コマドリだ」
宗之さんが目を細めた。
私は湯気の中ぼんやりと小鳥を眺め、楽しげな宗之さんの声を聞きながら、ああなんて幸せなんだろうと思う。彼といると、私はとても温かい。