極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
ビジネスの邪魔をしてもね、と私はキャシーに連れられホールのソファ席に移動する。華やかなドレス姿の懐かしい顔が並んでいて、目を瞬いた。みな大学の同級生だ。おそらく百貨店の上得意などで招待されていたのだろう。
『あら、来ていたのミツカ!』
みな朗らかに私を迎えてくれた。少し戸惑う。だって私は留学当時だって、そう愛想のいいほうじゃなかった。遠回しにそれを伝えると、みな不思議そうな顔をする。
『友達で日本人はあなただけだったから、日本人は皆そうかと思っていたのよ』
『日本人はシャイだしね』
『そうよ。それに日本人はニンジャの子孫というのもあるんでしょ?』
そう言われて皆で笑う。言った子だけポカンとしていて、どうやら本気だったのだとまたみなでからかった。
『も、もう。ええ、そうなの? ニンジャいないの?』
『嘘よ、みんなニンジャよ』
『もーう。どっちなの』
他愛もない話をしていると、気持ちがどんどん学生時代に戻っていっている気がする。
ボーイからカクテルグラスを受け取り、みなで楽しく思い出話に花を咲かせているときだった。
『……ミツカ』
男性の声に振り向く。そこにいたのは大学のころ、少しだけ親しかったクラスメイトだった。
一瞬名前を思い出すのに時間がかかる。
――そう、サイラス。サイラス・プレストン。イギリス貴族の御曹司……とはいえいわゆる“ドラ息子”というやつだ。
階級と資産をかさに着て、好き勝手している男。自分で得たものなどなにもないのに、それを自分の力だと勘違いしている低俗な人間。
私の父や兄と同じタイプの……つまり、とっても嫌いな人だった。
『サイラス。お久ぶり』
すっと声を低くして、目を細め彼をみやる。周りの友人たちの態度も似たようなものだった。それに構わず、サイラスは言葉を続ける。
『……結婚したんだって?』
『ええ』
私は小首をかしげた。どうやら既に酔っぱらっているようだった。
『どうしてムネユキ・サムガエなんだ』
どろりとした瞳がこちらを見やる。タールのようにドロドロとした怒りがその目にはあった。
態度には出さないものの、内心ぞくっとした私の耳元に、キャシーが『気を付けて』と囁いた。
『サイラスのやつ、何年か前に、おとなしくしていればいいのに急に親から融資を受けて会社を立ち上げたの。でももちろんそんな才能なんてないものだから、親にも見放されてすぐにつぶれたんだけど、その会社を合併したのがあなたの旦那様の子会社だったのよ』
あら、と内心鼻白む。サイラスは努力を嫌う男だ。でも会社の運営だなんて、努力なしではありえない。おそらく見栄のために利益など度外視で、親からの融資だけでなんとかしていたのだろうけれど、さすがに見切られたらしい。
『それ以来、領地でおとなしくしていたんだけど。今日は来ていたのね』
私は肩をすくめキャシーにお礼を言う。まあ、サイラスに構っても良いことはなさそうだ。
『ミツカ。なあ、君、無理やり結婚させられたんだって?』
サイラスの言葉に小さく眉を寄せた。一体誰からそんな話を聞いたのだろう?
『ニッポンの財閥どうしの政略結婚。そうじゃなきゃ、君があんな血も涙もない男と一緒になるわけがない。君が……僕の恋人だった君が……』
ぎょっとして身体を強張らせる。恋人? 私が、サイラスの?