極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
その言葉に目を瞬く。そのあだ名は、すくなくともこちらでは誰も知らないはず……。
じゃあ、とぞわぞわと恐怖が足元から上がってきた。
じゃあ、やっぱり、エミが宗之さんにつきまとい、私に嫌がらせをしてきた張本人……?
まさか、エミは日本語ができない。
そう心を落ち着けるようとしているのに、うまくいかない。エミはじっと私を見つめている。感情が全く読めない、ガラス玉みたいな瞳だ。とてもきれいなのに、怖い。
「あ、の」
つい日本語が出た。エミが不思議そうにする。やはり日本語はわからないらしい。少しほっとした。そうよね、そんなはずないわ。
けれど、次の瞬間、私は身体を強張らせた。
『ミツカ。わたしはね、あなたのご主人の元恋人なの』
淡々と言う彼女の瞳を見ながら、私は確信した。
この人、やっぱり宗之さんにつきまとっていたという女性だわ。
ぞ、と足元から恐怖が押し寄せる。けれど、ぐっと奥歯を噛み顔面から表情を消す。
できるわ。私は“氷の女王”。誇りと矜持と信念にかけて、この場を乗り切って見せる。
『あら、そう。じゃあ元恋人さん? 私にとっても素敵なラブレターを何枚も送ってくださったのは、あなた?』
わざと鷹揚な態度で目を細める。
挑発だ。これで怒ってここを出てくれればいいし、アフタヌーンティーからも退席してくれれば万々歳。
私たちは明日には日本に帰るし、そうなればもう直接会うこともないだろう。
エミはじとりと私を見て、口を開いた。
『……そうよ。警告のつもりだったわ』
『あら、警告だったの。気が付くのが遅れてごめんなさい。てっきりお茶会への招待状かと思ったものだから』
髪をかき上げつつ、アフタヌーンティーの意匠が描いてあったことをにおわせると、エミは歪に笑った。
『余裕たっぷりでいられるのも、いまのうちよ……いい? 女狐。ムネユキが結婚したのは、政略結婚で仕方なく、よ。実際、仮面夫婦なのよね? そうに決まってる』
私は内心で眉を寄せた。……仮面夫婦? どこかで聞いたフレーズ。と、以前日本であったパーティーで言われたのだと思い出した。もしかして、あの噂を流したのも……?
エミは日本語ができない。
けれど、人を雇えばいいだけの話だ。
『隠し撮りさせていたのも、あなた?』
『ええそうよ。もう少し怖がるかと思ったけれど』
私はぷぷっと吹き出した。
『……なによ』
『いえ、なんて可愛らしいんでしょうと思って。あなた大富豪の娘なのでしょう? なのにできるのは小学生みたいなお手紙を私に送ることと、中学生みたいにSNSを荒らすこと? ふふ、それで私がひるむとでも思ったの? 世間知らずのお姫様』
私の挑発に、エミはカッとした表情で唇をわなわなと震えさせた。
けれどすぐに表情を消し『そうね』と目を細めた。
『そう。その通りだわ。だから今回は、別の手を用意したの』
いぶかしみ、彼女から一歩距離を取った瞬間だった。
「んん……!」
口元をなにか黒いものが覆う。皮手袋に包まれた男の手だ。
心臓が冷たく軋み、ドッと全身から冷汗が湧き出る。一体、なに……⁉
指先までもがくがく震え、まともな判断ができない。振り向けばバラクラバをかぶった男と目が合う。
『叫べば殺す』