極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

 高々に笑うエミを呆然と見て、私は自然と「は」と笑った。

『……なによ?』
『いえ。夫が安く見られたものだと思って』

 私は両手両足を縛られ、嫌いな男の腕に抱かれた無様な格好のまま、目を眇め唇を上げた。

『私の夫が、そんなことをすると思って? あなたたちが二度と日の目を浴びられないようにしたあとで、私がもうあなたたちのことを思い出さないよう大切に大切に慈しんでくれます』

 私はいま、自由がない。
 それでも胸を張る。だって私は寒河江宗之の妻だから。

『だって私は、彼に愛されているもの』

 その言葉のあと、室内がシンとする。最初に声を上げたのはサイラスだった。

『ああ、ミツカ、君は騙されているんだ。もう大丈夫、僕とこの森で暮らそう。二度と離さないからね』
『願い下げよ。それに夫はすぐにここを突き止めるわ』
『どうやって?』

 エミはあざ笑う。

『証拠は何重にも消してあるわ。……ああ、いつまでそれをつけているの』

 エミは私に近づき、薬指の指輪に触れた。結婚指輪と、クリスマスに贈られたダイヤの指輪……!
 私は必死で拳を握り、抵抗する。

『やめて!』
『生意気よ。たまたま運がよくてムネユキの妻になれただけなのに、愛されているなんてたわ言!』

 エミが金切声で叫び、彼女の爪が皮膚に食い込んだ。私は歯を食いしばり、目尻に涙を浮かべながら、それでも手の力を緩めない。

「絶対に、これだけは」

 日本語でつぶやく。あのクリスマスイブの夜を思い出す。温かな暖炉、燃えていく契約、その代わりにした約束、そして宗之さんのぬくもり。

「宗之さあ……ん」

 耐えきれず夫の名前を呼ぶ。助けて、宗之さん、助けて……!

『はは、どんなに呼んだって君の夫は来ないよ』

 サイラスがそう言った瞬間だった。とおくからバラバラと音が聞こえてくる。

『なに……?』

 エミがいぶかしみ呟く間にも、その音は大きくなる。ヘリコプターの羽音だと気が付いたときには、羽の吹きおろしだろう、あたりの木々が猛烈な風で揺れるのが窓越しに見えた。

『しまった、警察?』
『まさか、防犯カメラだって避けたのに? ちょっと、ヘマしたんじゃないでしょうね』

 バラクラバの男にエミが詰め寄る。男は舌打ちとともに『してねえよ』とあたりを見回す。

『オレはずらかるぜ』
『な、置いて逃げる気』
『当たり前だろう、金でやとわれてるだけなん……わあっ』

 バリン、とガラスが割れる音がした。サイラスに抱かれたまま顔を上げる。
 天井に近い採光窓が割れていた。キラキラと破片が日に輝く。
 窓のさんに足をかけ、こちらを見下ろしていたのは。

「宗之……さん……?」
『楽しそうなパーティーだな』

 低く、威圧感たっぷりの冷酷な声だった。その場にいた全員が、凍り付いてしまうかのような……。

『俺も招待願おうか』

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