極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
そう言って彼は窓から床に飛び降りる。絨毯のせいか、音もない。そのまま立ち上がり、私を抱えているサイラスを睥睨する。夕日のせいで陰になり、その表情はよく見えない。ただ、瞳だけが怜悧に怒りを内包しぎらりと輝く。
『俺の妻を離せ。二度はないと言ったはずだ』
『い、いやだ。ミツカは僕のだ、僕のなんだ』
私を抱きしめ駄々をこねるサイラスの腕の中で、必死に体をよじる。
一瞬手が離れた瞬間に、宗之さんに奪われるように抱き留められた。
「宗之さん……っ」
「三花」
宗之さんの声は掠れていた。心臓がぎゅっとなる。自分が痛くて怖かったことよりも、彼に心配をかけたことのほうがつらい。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「謝るのは俺のほうだ」
勝手に護衛を外したのは私なのに、彼は優しく私の頭を撫でた。
『くそ、なにがなんなんだよ。こうなったら目撃者消して逃げてやる』
バラクラバの男が叫び、ナイフを宗之さんに振りかざす。
「いや、宗之さん!」
動かない身体で叫ぶ私に宗之さんは眉を下げ優しく微笑み、一歩足を引く。
すかっとナイフが宙を裂き、男がバランスを崩した瞬間に宗之さんは暖炉の火かき棒を手に取った。
「む、宗之さん。私を置いて逃げて」
「冗談だろう」
宗之さんは片手で私を抱いたまま、ナイフを構える男に右手で火かき棒を向ける。
「君の選んだ男は、君が思っているよりずっとタフだってところを見せてやる」
彼は笑い、怒号を上げてかかってきたバラクラバの男を除けざまに手首を火かき棒でたたく。男は「ぐわあっ」と呻き、ナイフを取り落とした。そのまま足を払い、こけた男の首元に棒の先端を突きつける。
『他愛もないな』
わざわざ英語で言い放ち、固まっているサイラスを睨みつける。
『おい。妻が欲しいならかかってこい、クソガキ』
『あ、その、ええと、僕は』
ぶるぶる震えるサイラスの前に、エミが立つ。
『どうして? どうしてなの、あなたは誰かを愛するような人じゃなかった! 結婚相手が誰でもいいなら私でもよかったでしょう!』
バン! と扉が開く。わらわらとなだれ込んできたのは警官隊だ。
宗之さんは拘束されていく三人を見ながら、私を抱えたまま歩き出す。
『ムネユキ……っ』
警官に羽交い絞めにされたエミはそれでも暴れながら宗之さんを呼ぶ。
『わたしでもよかったでしょう……?』
宗之さんは振り向き、『君は馬鹿なのか』と冷淡に言い放つ。
『俺が愛するのは三花だけだ』
そう言って私の額にキスを落とす。温かく、やわらかな唇に心がほどけ、わんわんと子供みたいに泣きじゃくる。
私も愛してると、なんどもしゃくりあげながら告げる。
そんな私を抱きしめ、宗之さんはただ静かに呼吸を繰り返していた。
私が生きてここにいるのを確かめるかのように、ただひたすら抱きしめ続けていた。