極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~
宗之さんが私の顔を覗き込む。
「一体どうしたんだ? 過労か? すこし休め、本当に」
「違うの」
私はそっと声をひそめ、小さく微笑んで続ける。
「妊娠してた」
宗之さんが一瞬動きを止め、それから目をゆっくりと瞬いた。
「妊娠」
「そう。私たちの赤ちゃん」
そう言うと、宗之さんは信じられないくらい、ふわっと優しく笑った。
「そうか」
「そうなの」
「そうか……」
宗之さんはしみじみとした顔で言い、すぐさま私を抱き上げた。
「きゃあ!」
「それこそ、もう無理するな。やれる業務はすべてほかに振れ」
「そういうわけにもいかないわ」
「よくある台詞だろうが、もう君だけの身体じゃないんだぞ」
彼の口からそんな言葉が出るなんて、と笑っていると、スタスタ歩いて車の助手席に座らされる。
その上シートベルトまでつけられて。きょとんとしていると、宗之さんは満足そうに笑い、運転席に座った。
「あの、まさか生まれるまでこんな過保護に……?」
「実はずっと甘えてほしかったんだ」
「じゅうぶん甘えていますけど?」
宗之さんは聞いているのかいないのか、鼻歌交じりにアクセルを踏む。
私の前でだけ出る、ほんのちょっとだけ調子の外れた鼻歌。
地下から出ると、街路樹の桜が今が盛りと咲き誇っている。晴れた空は絵の具が滲んだような美しい水色。
「今日は温かいね」
私が言うと、宗之さんも「そうだな」と笑う。
じんわりと、幸福感で胸がほんわりと熱を持つ。
あなたの横は、ぬくもりがあって、ぽかぽか幸せだ。
心地よくて、そっと目を閉じる。
私の氷は、もうすっかり溶けてしまったのだろう。以前みたいにふるまおうとしても、とうていできない。
こられからも、このひだまりみたいな温かさと一緒に生きていく。
そう思うと、泣きそうなほどに幸福だった。
幸福なまどろみの中、夢を見る。
少年が去ったあとの、雪の女王のもとに、王子さまはやってくる。
そうして王子様のぬくもりで雪が溶け去り、彼女は花が咲いたように笑った。
――やっぱり物語は、ハッピーエンドじゃないとね。


