極氷御曹司の燃える愛で氷の女王は熱く溶ける~冷え切った契約結婚だったはずですが~

 結婚自体は別に構わない。
 どうせ結婚なんか契約の一部。
 愛情なんか求めてないし、そもそも男性が一途に女性を愛するなんて幻想も抱いていない。
 どうせいつかしなくてはならないのなら、少しでも自分の有利になるようにするべきだ。

「社長、本日は十八時より寒河江様と会食のご予定ですが、その前にお召し替えのお時間は必要でしょうか?」

 運転席から吉岡が朗らかに言う。
 彼もこれが寒河江家との見合いだと分かっていて、でも同時に私が乗り気でないのも承知だ。

「必要ないわ。このままで構わないでしょう」

 春らしいカットソーにパンツスーツ、十センチヒールの黒いパンプス。
 髪は片方に流してある。いつも通りのビジネススタイルだ。

 足を組み直し、窓の外を見る。春の街並み、道ゆく誰もが機嫌がよさそうで羨ましくなる。私は気の進まない見合いがあるというのに──もっとも、それを誰にも悟らせてはいけない。

 私はいつだって冷静で、無感情で、クールでいなくては。

 まあ相手だって、私がめかし込んでくることを期待なんかしていないだろうと思うと、少し気が楽になる。

 ──寒河江(さむがえ)宗之(むねゆき)
 旧財閥の御曹司、跡取りの長男。

 二十六歳の私より五つ年上の三十一歳。

 冷淡冷酷冷静、「冷」のつく二字熟語全てを網羅したような男性だ。
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