【マンガシナリオ】幼なじみと再会したら、予想外の求愛が始まりました

第1話 幼なじみと再会


〇校庭の桜の木の下、4月上旬(朝)

桜の木の下で向かい合って立つ、一組の男女。男子は緊張した面持ち。

朱莉「……話って何?」
男子「あの、俺……本郷さんのことが好きなんです。付き合ってください!」※手を差し出して、頭を下げる。
朱莉「……ごめんなさい」

告白してきた男子を冷たい表情でバッサリと振ると、朱莉はスタスタと歩いていく。

 ・本郷(ほんごう)朱莉(あかり) : この4月から高校3年生。黒髪のサラサラロングヘアで、猫目の美少女。


女子1「うわぁー、本郷さん今回もまたバッサリと」
女子2「ほんと、キツいよね」


男子が朱莉に告白してから振られるまでの、一連の流れを見ていた周りの女子生徒たちが、ひそひそと話す。

彼女たちの声が聞こえた朱莉は、歩いていた足を止め、拳をきつく握りしめる。


朱莉(私だって、せっかく勇気を出して告白してくれた人を簡単に振ってしまうのは、申し訳ないなって思ってる。)
(だけど……昔、中学時代に付き合っていた彼に裏切られて、傷ついた過去があるから)
(傷つくくらいなら、私はもう誰とも付き合わないって決めたの)

 ・中学時代の朱莉が泣いている回想の絵。


目の前に桜の花びらがひらひらと舞い落ち、朱莉はそっと満開の桜の木を見上げる。


朱莉(だから、恋愛は二度とごめんだって、そう思っていたのに……)
(高校3年生の春。あの人は、突然私の前に現れた)


〇新学期。3年2組の朝のホームルーム。


担任「えー、今日からこのクラスに新しい仲間が増えることになった」

担任の先生(40代男性)の言葉に、クラスメイトたちは一気に騒ぎ出す。

男子1「転校生ってマジかよ」
男子2「オレ、可愛い女子が良いなぁ」
女子1「あたしはイケメン希望ー!」
朱莉(……別に私は、男子でも女子でもどっちでも良いけど)
窓際の席で頬杖をつきながら、騒ぎ立てるクラスメイトたちを冷めた目で見つめる朱莉。

担任「お前たち静かに! それじゃあ芦原(あしはら)、入ってきなさい」
水輝「はい」

担任の先生に呼ばれ、ひとりの男子生徒・芦原水輝が教室に入ってくる。

 ・芦原水輝 : 容姿端麗。サラサラの茶髪、左耳にはピアスをしている

水輝が教壇に立った瞬間、教室は黄色い歓声に包まれた。

女子たち「キャーーッ!」「カッコイイ〜!」
担任「芦原、自己紹介してくれ」
水輝「はい。芦原水輝(みずき)です。アメリカから、引っ越してきました」
朱莉(……ん? 水輝?)
転校生の水輝という名前を聞いてハッとした朱莉は、窓の外から転校生へと顔を向けた。

朱莉(あの転校生、苗字は違うけど幼なじみの水輝に似てる。10年前に他県に引っ越していった、あの男の子に……)


〈幼い頃の回想〉

朱莉M【私の幼なじみ・神田(かんだ)水輝は、同い年の男の子で、家の近所に住んでいた】
【お互いに母子家庭ということもあり、母親同士も仲が良く、たまに夕飯を一緒に食べたり、家族ぐるみでの付き合いがあった】

公園で遊んだり、一緒にオムライスを食べる幼い二人の絵。

朱莉【幼稚園生の頃は私よりも背が低くて、女の子みたいに可愛かった水輝は、よく男子にからかわれて泣いていた】
【だから、私がいつもかばってあげていたんだ】

男の園児『水輝って、名前も見た目も女子みたいだなあ』
幼い水輝『うっうう』※大きな瞳には大粒の涙
幼い朱莉『ちょっと、やめなさいよ! 水輝は女の子じゃないんだから』
泣いている水輝を、自分の背中に隠してかばう朱莉。

〈回想終了・教室のシーンに戻る〉


朱莉(ふふ。懐かしいなあ)※目を細める

昔を懐かしみながら、朱莉は教壇に立つ転校生に目を向ける。
朱莉「!」
すると、彼と目が合いニコッと優しく微笑まれた。
朱莉(えっ、今……私を見て笑った?)

担任「それじゃあ芦原の席は、空いている窓際の一番後ろだ」
水輝「はい」

自己紹介を終え、水輝がこちらへ歩いてくる。

朱莉「ねえ、あなた……もしかして、幼なじみの神田水輝くんなの?」※口元に手を当て、小声で。

朱莉の席のそばを転校生が通る際に、朱莉は思い切って尋ねてみるも、彼は無反応で通り過ぎていく。

朱莉(あれ。さっきは微笑まれたと思ったんだけど……気のせいだったのかな? もしかして、幼なじみの彼じゃなく他人の空似?)

※無視されても、朱莉はさほど気にしていない様子。


〇休み時間

朝のホームルームが終わり、さっそくクラスの女子たちが水輝の席を取り囲む。

女子1「ねえ。芦原くん、日本語が上手だけど、昔は日本に住んでたの?」
水輝「うん。小学生の頃までは」
女子2「芦原くんって、彼女とかいるの?」
水輝「彼女は……いないかな」
女子3「えっ、ほんと!? だったら私、立候補して良い?」
女子4「いや、あたしが!」

彼女の有無を聞かれて「いない」と答える水輝に、女子たちは盛り上がる。その様子を、自分の席から軽く睨むように見つめる朱莉。

朱莉(……高3になって受験生だっていうのに、彼氏とか浮かれてバカバカしい。)

水輝「ごめんね。彼女はいないけど、俺……好きな子がいるから」

ハッキリと言い切った水輝に、朱莉はなぜか胸の辺りがほんの少しモヤッとした。

朱莉(へえ。あの子、好きな子いるんだ。)
朱莉(まあ、あの人が幼なじみの水輝だっていう確証はないし。余計なことは気にせず、勉強でもしよう。)
(私の将来の夢は、医師なんだから。時間は一秒も無駄にできない!)

朱莉が机の中から取り出した数学の参考書を開いたそのとき。
参考書に挟んでいたプリントが、はらりと床に落ちた。

朱莉「あっ」

慌ててプリントを拾おうと席を立った朱莉よりも早く、誰かが先にそれを拾ってくれた。

水輝「どうぞ」
朱莉「あ、ありがとう……」

拾ってくれたのは、転校生。吸い込まれそうな水輝の大きな瞳に、朱莉はドキリとする。


○放課後、教室


女子1「ねえねえ。芦原くんの歓迎会を兼ねて、このあと皆でカラオケに行かない?」
女子2「おっ、いいね」

教室では、クラスメイトたちがカラオケに行こうという話で盛り上がっている。

男子1「ねえ、本郷さんも良かったら……」
朱莉「ごめんなさい。私はパスで」

人と群れることを嫌い、誰かと遊ぶ暇があれば勉強! という考えの朱莉は、学校ではいつもこの手の誘いは断っていた。

女子1「田中もバカだなあ。本郷さんが来る訳ないじゃない」
女子2「そうそう。誘うだけムダムダ」

女子たちの笑い声を聞きながら、朱莉は黙って教室を出た。


○廊下


朱莉が颯爽と廊下を歩いていると、後ろから誰かに声をかけられる。

メガネ男子「す、すいません」

朱莉が振り返ると、よく知らないメガネの男子が立っていた。

メガネ男子「あのっ、俺……本郷さんのことが、1年の頃からずっと好きでした」
朱莉「……ごめんなさい。あなたとは、付き合えないです」

手を差し出すメガネ男子にきっぱりと言うと、朱莉はスタスタと歩き始める。

朱莉(私はこの先、できるだけ人に頼らず生きていくって決めたから。)

朱莉【私が4歳の頃、お父さんが突然の交通事故で亡くなって以来、私はお母さんとのふたりぐらし。】
【兄弟もいとこもおらず、他に頼れる人はいない。将来もし結婚できたとしても、お母さんのように未亡人になる可能性だってあるから】
【いざというときも一人で生きていけるように、手に職をつけよう。給料の良い安定した仕事で、何か人の役に立てるようなことをしたいと思った私は、将来医師になるのを目標に日々勉強をしている。】

朱莉(女手一つでここまで育ててくれたお母さんを、楽させてあげたいし……よし、勉強しよう)

英語の単語帳を開いて、廊下を歩いていると。

朱莉「きゃっ!?」

横から伸びてきた手に手首をつかまれ、朱莉は何者かに空き教室に連れ込まれた。

朱莉「ちょっと。誰なの、いきなり……あっ」

朱莉の手を突然つかんだのは、転校生の芦原水輝。

水輝「久しぶりだね、あーちゃん」
“あーちゃん”と呼ばれ、朱莉は目を見開く。

朱莉「その呼び方。やっぱりあなた、幼なじみの水輝なの!? あの泣き虫だった……」
水輝「ははっ。泣き虫って、一言余計だよ」
朱莉「ご、ごめん」
朱莉は、目の前の水輝を見上げる
朱莉(水輝、背高いな。最後に会ったときは、私のほうが高かったのに。)
※水輝は朱莉よりも、頭ひとつ分は高い。

水輝「それに、俺はもう昔みたいに泣き虫じゃないよ」
朱莉の頬に、手を添える水輝。

水輝「あーちゃん、会いたかったよ。しばらく会わない間に、キレイになったね」
朱莉「っ。もしかして、そんなお世辞を言うために、わざわざこんなところに私を連れ込んだの?」
水輝「まさか〜。それに、お世辞なんかじゃないよ。俺は本当にそう思ってる」

朱莉の頬から手が離れ、水輝が後ろ手に隠していた3本のバラの花を差し出す。

朱莉(ん? この花は一体なに?)

水輝「朱莉」
初めて名前を呼び捨てにされ、朱莉の胸がドキッと跳ねる。

水輝「俺と結婚してくれない?」
朱莉「へ……?」
水輝の突然のプロポーズに頭が追いつかず、間抜けな顔でしばらく硬直する朱莉。

朱莉「み、水輝、今……結婚してって言った?」
水輝「うん」
朱莉「誰と誰が?」
水輝「もちろん、俺とあーちゃんが」
朱莉「!?」
言葉の意味をようやく理解した途端、動揺を隠しきれない朱莉。

朱莉(けけけ、結婚してって何よ急に!)
(もしかして、冗談? それとも新種の詐欺か何かで、再会して早々に私を騙そうとしている?!)
朱莉「……こほん」※わざとらしく咳払い
朱莉(落ち着くのよ、私)
朱莉「あの、エイプリルフールは先週終わったけど?」
水輝「えっ。エイプリルフールって、まさか信じてくれてないの? ひどいな、あーちゃん」
水輝が怒ったようにムッとする。

朱莉「当たり前でしょ? 10年ぶりに会って、いきなり結婚してだなんて……そんなの、すぐに信じられる訳ないじゃない!」
水輝「でも、俺は本気だよ。だって、約束したでしょ? 大人になったら、結婚しようって」
朱莉(約束!? そんなの知らないんだけど)

何が何やら分からず、朱莉の頭はもうパンク寸前。

水輝「改めて言うよ。あーちゃん、俺と結婚してください」
朱莉「……っ」※困惑した表情

朱莉【本郷朱莉、17歳。再会した幼なじみに、なぜか突然プロポーズされました】

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