野いちご源氏物語 一四 澪標(みおつくし)
そうそう、源氏の君は明石の君のことだって忘れてはおられないわ。
でも、都にお戻りになってあれこれお忙しいから、お手紙のやりとりもあまりできずにいらっしゃった。
三月、
<もうすぐ生まれるのではないだろうか>
とお思いになって、こっそり使者をお出しになる。
使者はすぐに都に戻ってきて、
「十六日に女のお子様がお生まれになりました。母君もお子様もご無事でございます」
と報告した。
<初めての女の子だ>
と、源氏の君はお喜びになる一方で、
<どうして都に迎えて出産させなかったのだろう>
と後悔なさる。
実は、源氏の君は以前、占い師にこんなことを言われたことがあるの。
「あなた様のお子は三人お生まれになります。帝におなりになる方と、中宮におなりになる方、必ず両方ともお生まれになります。もうおひとりは、そのおふたりに比べればご身分は劣りますが、貴族の最高位である太政大臣におなりになるでしょう」
源氏の君は、お子をおひとりおひとり考えていかれる。
<入道の宮様との間に生まれた皇子は、先月帝におなりになった。左大臣家で育てられている若君は、将来太政大臣になるのだろう。となると、明石で生まれた姫は中宮になる運命か>
源氏の君は占いどおりになっていくことをよろこんでいらっしゃるけれど、これとは別に、もうひとつ不思議な占いの予言があったことを覚えている?
それは、源氏の君がまだご元服なさる前、朝鮮半島から来ていた人相占い師がした予言よ。
占い師は、源氏の君のお顔を見てこう言ったの。
「帝になられるお顔立ちでいらっしゃいますが、しかしそうなれば国が乱れてしまうでしょう。では貴族として帝をお支えするご将来を考えてみますと、それもまた違うようなお顔立ちでございます」
源氏の君は、
<あの占いだけは外れだな。亡き上皇様は私をとてもおかわいがりくださったけれど、皇族のまま生きていくことはお許しにならず、ただの貴族の身分になさった。その私が今さら帝になるなどありえない>
と思っていらっしゃる。
さぁ、これは当たるのか外れるのか、どうなるのかしら。
皇子はすでに帝になられたし、若君に対しては父親としてご出世を応援なさればよい。
ただ、姫君のお育て方は難しい問題よ。
<私が娘をもてたのは住吉の神様のおかげだ。明石の君も、その父の入道も、どうしてあんな奇妙な生き方をしているのだろうと不思議だったけれど、すべてはこの娘が生まれるためだったのだ。それにしても、将来中宮におなりになる子が田舎で生まれてしまったのは恐れ多い。しばらくして母子の体調が落ち着いたら、東の院へお迎えしよう>
と、改築をお急がせになる。
でも、都にお戻りになってあれこれお忙しいから、お手紙のやりとりもあまりできずにいらっしゃった。
三月、
<もうすぐ生まれるのではないだろうか>
とお思いになって、こっそり使者をお出しになる。
使者はすぐに都に戻ってきて、
「十六日に女のお子様がお生まれになりました。母君もお子様もご無事でございます」
と報告した。
<初めての女の子だ>
と、源氏の君はお喜びになる一方で、
<どうして都に迎えて出産させなかったのだろう>
と後悔なさる。
実は、源氏の君は以前、占い師にこんなことを言われたことがあるの。
「あなた様のお子は三人お生まれになります。帝におなりになる方と、中宮におなりになる方、必ず両方ともお生まれになります。もうおひとりは、そのおふたりに比べればご身分は劣りますが、貴族の最高位である太政大臣におなりになるでしょう」
源氏の君は、お子をおひとりおひとり考えていかれる。
<入道の宮様との間に生まれた皇子は、先月帝におなりになった。左大臣家で育てられている若君は、将来太政大臣になるのだろう。となると、明石で生まれた姫は中宮になる運命か>
源氏の君は占いどおりになっていくことをよろこんでいらっしゃるけれど、これとは別に、もうひとつ不思議な占いの予言があったことを覚えている?
それは、源氏の君がまだご元服なさる前、朝鮮半島から来ていた人相占い師がした予言よ。
占い師は、源氏の君のお顔を見てこう言ったの。
「帝になられるお顔立ちでいらっしゃいますが、しかしそうなれば国が乱れてしまうでしょう。では貴族として帝をお支えするご将来を考えてみますと、それもまた違うようなお顔立ちでございます」
源氏の君は、
<あの占いだけは外れだな。亡き上皇様は私をとてもおかわいがりくださったけれど、皇族のまま生きていくことはお許しにならず、ただの貴族の身分になさった。その私が今さら帝になるなどありえない>
と思っていらっしゃる。
さぁ、これは当たるのか外れるのか、どうなるのかしら。
皇子はすでに帝になられたし、若君に対しては父親としてご出世を応援なさればよい。
ただ、姫君のお育て方は難しい問題よ。
<私が娘をもてたのは住吉の神様のおかげだ。明石の君も、その父の入道も、どうしてあんな奇妙な生き方をしているのだろうと不思議だったけれど、すべてはこの娘が生まれるためだったのだ。それにしても、将来中宮におなりになる子が田舎で生まれてしまったのは恐れ多い。しばらくして母子の体調が落ち着いたら、東の院へお迎えしよう>
と、改築をお急がせになる。