あの桜の木の下で
数日後、屯所内での緊張感はますます高まっていた。伊東甲子太郎の影響が少しずつ隊士たちに広がり、隊内での対立が顕在化してきていた。伊東派と近藤派、土方派の対立は日に日に激しさを増し、もはや表向きには見過ごせなくなっていた。

その夜、俺とそうちゃんは一緒に屯所の広間に集まっていた。他の隊士たちはすでに自分の部屋で休んでいる時間だが、俺たちはあえてここで話をすることにした。

「……このままだと、どうなると思う?」

そうちゃんが口を開いた。

「わからない。でも、もし伊東が何かを企んでいるのなら、遅かれ早かれ衝突が起きるだろう。」

俺の言葉に、そうちゃんは黙って頷いた。

「春樹、あなたはどうするつもり?」

その問いに、俺は一瞬戸惑った。

「俺は……。」

言葉に詰まった。

新選組は俺にとって大切な場所だ。だが、それと同時に、今の状態では隊士たちの間に裂け目ができつつあることも感じていた。もし、このまま伊東と対立することになれば、どちらを選ぶべきなのか——

「俺が選ばなければならない時が来るんだろうな。」

「うん。」

そうちゃんの言葉は重かった。彼女もまた、この状況に胸を痛めているのだろう。それでも、彼女はあえて何も言わない。ただ静かに、俺の目を見つめていた。

「伊東が裏で何かをしているのは間違いない。」

「それは間違いないな。」

「けれど、私たちは何も知らない。もしかしたら、近藤さんや土方さんが何か手を打ってくれるかもしれない。」

そうちゃんの言葉に少し安堵を感じながらも、心の中では不安が募っていった。

その時、屯所の扉が静かに開かれた。

「……すまない。」

入ってきたのは、土方さんだった。彼の顔には、普段の厳しさが隠しきれない疲れが浮かんでいた。

「土方さん?」

「お前たち、今どんな状況だと思っている?」

土方さんの声は、普段の冷静さを欠いていた。

「伊東のことで、何か気づいたか?」

「……気づいたことはあります。」

そうちゃんが答えると、土方さんはうなずいた。

「じゃあ、お前たちもわかっているだろう。いずれ、対立が起きることは避けられない。」

俺は心の中でその言葉を噛みしめる。

「けど、それを避けるためにはどうするべきか——それが問題だ。」

土方さんは深いため息をつきながら言った。

「伊東の動きが本格的になったとき、もし衝突が起きれば、俺たちはどうするべきか。隊士たちの間で意見が分かれる可能性も高い。だが、俺たちの組織としての結束を崩すわけにはいかない。」

「そのためには、どうすればいいんですか?」

俺が問いかけると、土方さんは一瞬目を閉じた。

「今、伊東が何を考えているのか、そして彼がどれだけの支持を集めているのか——その情報を集めることが先決だ。」

「情報を?」

「そうだ。」土方さんは再び目を開け、鋭く俺たちを見据えた。「お前たちも、動け。」

そうちゃんと俺は顔を見合わせる。

「了解しました。」

土方さんは、少しだけ深く息を吸い、そして静かに言った。

「だが、もし何かが起きたとき——俺たちは一つの道を選ばなければならない。」

その言葉には、確かな覚悟が込められていた。

「わかりました。」

俺はしっかりと答えた。

そして、俺たちは動き出す決意を固めた。

今、何かを変えなければならない。そして、その選択が新選組の未来を決めることになる。



その日の夜、俺とそうちゃんはそれぞれの部屋に戻った。だが、眠れぬまま時間が過ぎていった。

何かが動き出す。その予感が、俺を掴んで離さなかった。
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