あの桜の木の下で

夜の京、月明かりの中で静かな緊張が漂っていた。伊東甲子太郎の動きは依然として不明瞭で、俺たちはその真意を掴むために、彼を追い続けるしかなかった。伊東がどこに向かっているのか、何を企んでいるのか、俺たちにはわからない。しかし、このまま見過ごすことはできなかった。

「春樹、あの先だ。」そうちゃんが低くつぶやいた。指差す先に、ひときわ暗く佇む建物が見えた。その建物の前に、伊東が立っている。

「まさか、ここが……」俺は息を飲み、建物に近づく。

「間違いない、ここだ。」そうちゃんの目は鋭く、今にも飛びかかりそうな勢いだ。

俺たちはしばらくその場で待機し、伊東が建物に入るのを見届けた。建物の中に誰かが待っている様子も見受けられた。今がその時だ。静かに進み、耳を澄ませる。伊東の会話が漏れ聞こえるのを待った。

「春樹、準備はいい？」そうちゃんが小声で聞いてきた。

「問題ない。」俺は頷き、すぐに行動を開始した。

俺たちは影のように動き、建物に忍び込む。伊東の姿はすぐに見つけることができた。彼は奥の部屋に入っていった。そこには見覚えのある人物――伊東と密に連携している者たちが待ち構えているようだった。

「春樹、気をつけて。」そうちゃんが警戒しながら言った。

俺たちはその部屋に足を踏み入れる。だが、伊東はすでにその気配を感じ取っていたようだ。薄暗い部屋の中で、彼の顔が一瞬、明るく浮かび上がった。

「新選組の者か。」伊東は冷静に言った。その顔に驚きや焦りは一切見られなかった。むしろ、余裕さえ感じられる。

「伊東、お前の裏切りを止めに来た。」俺は一歩踏み込むと、言い放った。

「裏切り？ それは違う。」伊東は微笑みながら答えた。「俺がやっていることは、新選組のためでもあり、京のためでもある。お前たちが知らないだけだ。」

「もう言い訳は聞きたくない。」そうちゃんが言い放ち、刀を抜いた。

伊東はその反応を見て、淡々とした表情で続けた。「お前たちは、新選組の本当の力を見ていない。俺が示す道が、未来を作る。」

「それを阻止するために、俺たちがいる。」俺はそう言って、刀を抜く。

その瞬間、伊東は冷静に構え直し、周囲の仲間たちに合図を送った。暗闇の中で、伊東の仲間たちが一斉に動き出した。激しい戦いが始まった。

刀が交わり、金属の音が響く。俺たちは必死に伊東の計画を止めるため、そして新選組を守るために戦った。だが、伊東の剣術は予想以上に鋭く、その計算された動きに苦しめられる。

「春樹、後ろ！」そうちゃんの声が響き、俺は振り向くと、すぐに敵の剣を受け止めた。

「ありがとう、そうちゃん。」俺は歯を食いしばり、敵を一掃しながら言った。

戦いは続く。だが、決して伊東を許すことはできない。彼が新選組の裏切り者だとしても、俺たちはその責任を取らせるつもりだ。

「伊東、お前をここで終わらせる！」俺は叫びながら、突進した。

そして、その時、伊東の冷徹な目が一瞬だけ動揺を見せた。だが、すぐにその表情は消え去り、彼は再び刀を構え直す。

戦いの結末は、もはや誰にも予測できなかった。