あの桜の木の下で
激しい戦闘が繰り広げられる中、伊東甲子太郎は依然として冷静さを失うことなく、素早く動き回っていた。彼の剣は巧妙で、どんな隙間でも突くように切り込んでくる。しかし、俺たちは決して負けるわけにはいかない。
「そうちゃん、気をつけろ!」俺は叫びながら、目の前の敵を一閃で払い除ける。
「わかってる。」そうちゃんは鋭い眼差しで周囲を警戒しながら、確実に敵を倒していく。
だが、伊東はますます余裕を見せていた。俺が近づけば、すぐに距離を取っては鋭い一撃を放ってくる。その戦いの中で、彼が本当の意味で「新選組」には収まりきらない存在だと感じ始めていた。
「お前の目指すものが見えない!」俺は息を切らしながら叫んだ。
「目指すもの?」伊東は軽く笑った。その笑顔には、どこか不気味さがあった。「俺が目指しているのは、ただ一つ。新しい時代だ。俺はそのために、必要な犠牲も厭わない。」
その言葉に、俺は震えるような怒りを覚えた。伊東が言っている「新しい時代」とは、一体何なのか。裏切り者となり、剣を取ることで未来を作るなどと……そんなものが許されるはずがない。
「俺は……新選組を守る!」俺は再び突進し、伊東の剣を受け流しながら、彼に迫った。
だが、その刹那、伊東は一瞬にして身を翻し、奥の部屋へと消えていった。まるで最初から戦いを楽しんでいるかのように。
「逃がすか!」俺は追いかけようとしたが、すぐにそうちゃんが制止した。
「春樹、待って!」そうちゃんが俺の腕を掴んで引き止める。「無理に追いかけても……今は彼の思うつぼだ。」
「でも!」俺は抗おうとしたが、そうちゃんの目は真剣そのものだった。
「今はまだ、彼を追い詰めるタイミングじゃない。」そうちゃんは冷静に言う。「今こそ、私たちの冷静さを保つべきだ。伊東がどう動くか、それを見極める時間だ。」
その言葉に、俺はようやく冷静さを取り戻した。確かに、今すぐ追い詰めるのは無謀だ。伊東は計算高く、私たちが焦ればその隙を突いてくるだろう。今は彼の動きを見守り、次の手を考えなければならない。
俺たちは一度その場から退き、屯所に戻った。だが、伊東の裏切り者としての動きは、ますます深刻になりつつある。彼が新選組を裏切り、何を企んでいるのか。それを解明しなければ、京の街に平穏を取り戻すことはできない。
その夜、俺たちは再び集まって会議を開くことにした。近藤さん、土方さん、そして他の隊士たちもその場に集まり、伊東の動きについて話し合うことになった。
「どうする、近藤さん?」土方さんが真剣な表情で尋ねる。
「伊東が裏切り者である可能性が高い。」近藤さんは深いため息をつきながら言った。「だが、彼が本当に何を目的にしているのか、まだわからない。少しでもその手掛かりを掴む必要がある。」
「それには、伊東の動向をしっかり監視するしかないな。」土方さんは腕を組んで考え込んでいる。
「わかりました。」俺は立ち上がり、決意を込めて言った。「俺も、もう一度あいつの足取りを追います。」
そうちゃんもその決意を汲み取るように、静かに頷いた。「私も、一緒に行くよ。もう一度、伊東の本当の目的を突き止める。」
「二人とも気をつけろよ。」近藤さんが心配そうに言った。「伊東のやり方は、今までのどんな敵とも違う。裏切り者の動きには、どんな罠が仕掛けられているかわからない。」
「わかってる。」俺はしっかりと答えた。
そして、翌日。俺たちは再び伊東の動きを追うために動き出す。新選組の未来を守るために、そして、彼の裏切りを止めるために。