あの桜の木の下で

総司の回復が進んでいく中、新選組の中での緊張感は少しずつ高まっていった。総司が戻ったことは、隊士たちにとって嬉しい知らせではあったが、その裏で新たな不安が生まれ始めていた。

近藤さん、土方さん、そして俺たち隊士の間には、無言のプレッシャーがかかっていた。戦闘の中で感じた絆、そしてそれを乗り越える覚悟。それらが、次第に重く感じられるようになっていった。

一方で、総司は少しずつ元気を取り戻し、再び訓練にも顔を出すようになった。しかし、彼女の体調が完全に回復しているわけではないことは、みんなが分かっていた。総司もそれを自覚しているようで、無理をしていないか心配する俺に、時折静かに微笑んでこう言う。

「大丈夫、春樹。少しずつやっていけばいいだけだから。」

だが、その笑顔の裏には、どこか隠しているものがあるように感じられてならなかった。総司は、決して自分の弱さを見せることなく、むしろ逆に強くあろうとする。その姿勢は、俺にとっては時に重く感じた。

ある日、京の街に新たな動きがあった。何の前触れもなく、街中が騒がしくなり、急遽新選組はその対応に追われることとなった。どうやら、またもや一部の志士たちが、反幕府の活動を再開したらしい。

「春樹、準備を整えろ。俺たちが行くべき時だ。」近藤さんが、しっかりとした声で指示を出した。

総司も、わずかな体調の変化を感じながらも、駆けつける準備を始めていた。

「総司、無理はしないでくれ。」俺が言うと、総司は一瞬だけ目を細め、そして短く答えた。

「戦うために生きている。無理でも行く。」

その言葉に、俺は黙って頷くしかなかった。総司の意思が固いことを知っていたからだ。そして、俺たちは再び戦いに赴く準備を整えた。

その戦いの最中、俺は一つの不安を抱えていた。それは、総司が再び無理をしてしまうのではないかということだ。もし、あのような体調で戦いに臨んだら、最悪の事態を迎えてしまうかもしれない。

だが、総司の姿を見ていると、そんな言葉が意味を成さないように感じてしまう。彼女の目には、戦うことしかないという覚悟が宿っていたからだ。

戦闘が終わり、やっとのことで屯所に戻った夜。俺は、総司を部屋で休ませるために急いで向かうと、彼女は思いのほか早くベッドに横たわっていた。

「総司、無理はするなって言っただろ。」俺は心配そうに声をかけた。

「わかってる。でも、これ以上待ってられなかったんだ。」総司は軽く笑いながら言うと、少し息をついてから続けた。「私、もう少しだけでいいから、皆と一緒に戦いたかったんだ。」

その言葉に、俺は再び胸が締め付けられる思いがした。彼女は、自分の体調がどれだけ危険な状態でも、戦場に立ち続けることを選ぶ。その覚悟が、時に恐ろしいほどに強かった。

だが、俺はその覚悟を無駄にするわけにはいかないと思っていた。

「総司、戦うために生きているんじゃなくて、みんなと一緒に生きるために戦うんだ。」俺は静かに言った。

総司はその言葉を聞いて、少しの間黙っていた。そして、やがて深く息をついて、静かに言った。

「春樹、ありがとう。」

その一言が、俺の胸を温かくした。戦いの中で、俺たちは本当に強くなれるのだろうか。それはわからない。ただ、今できることを、全力でやるだけだ。

その夜、総司はようやく静かに眠りについた。俺はその寝顔を見守りながら、彼女が再び無理をしないように、そして新選組として共に戦い続けられるように、何よりも大切に守り抜くことを誓った