あの桜の木の下で
その後、総司が無理をしすぎないように、俺は彼女の様子をより一層気にかけるようになった。しかし、新選組の任務は続き、戦いの火種は消えることなく再び我々を待ち受けていた。
ある日、再び幕府からの命令で、京都の治安を維持するために新選組は動員されることになった。今回は、京の一部で反乱を企てているとされる勢力に対する出動だった。近藤さんや土方さんは、緊張した面持ちで指示を出し、我々はそれに従う形となった。
「春樹、総司も行けるか?」近藤さんが俺に尋ねる。
「まだ完全に回復しているわけではないんですが、本人がどうしても行きたいと言っているので。」俺は少し悩んだ後に答えた。
総司が出撃を希望する理由は、彼女の中で戦いが終わっていないという思いが強いからだ。彼女が戦場を離れることは、きっと自分が戦士として無力だと感じる瞬間を意味するのだろう。だが、体調が完全ではないことは、何度も言っているように心配だった。
その夜、再び京の街に新選組の影が広がり、任務が始まった。今回は反乱勢力が複数の拠点に分かれて活動しているという情報もあり、非常に厳しい戦いが予想されていた。
俺たちは一行となって反乱の拠点へ向かう中、総司は俺の隣を歩いていた。彼女は常に先頭を歩きたがるが、今日は少しゆっくり歩いているようにも見えた。
「総司、無理してないか?」俺はそっと声をかけた。
「大丈夫だよ、春樹。これくらい、なんでもない。」そう言って総司は微笑んだが、その微笑みの中に少し疲れが見え隠れしていた。
「無理しないでくれ。」俺は強く言ったが、総司はすぐに応じた。
「わかってる。けど、戦わなければ新選組として意味がない。」総司はそう言って、背筋を伸ばした。
その言葉が、俺には痛いほど伝わった。戦わなければならない、という覚悟が彼女の中でどれほど強いものか、俺は十分に理解していた。だが、彼女が無理をしているのは明らかだった。
任務に到着するまでの時間、俺は総司を支え続け、彼女が力を出し切れるように見守り続けた。戦いが始まると、総司はやはりその戦闘能力を遺憾なく発揮し、俺たちの前で見事に戦った。しかし、戦闘後、彼女の顔色はさらに悪化し、しばらくしてからようやく倒れ込むようにして座り込んだ。
「総司!」俺は駆け寄って彼女を支えた。
「……春樹、大丈夫。少し休むだけだから。」彼女は微笑みながら言ったが、その笑顔は痛々しく、無理をしていることが感じ取れた。
「無理だ。お前は休まないとダメだ。」俺は強く言ったが、総司はその手をそっと振り払った。
「私が戦わなければ、新選組が弱くなってしまう。」総司の目に宿る決意は、言葉で表せないほどの強さだった。
俺は、その思いを否定することができなかった。しかし、彼女の命が危うくなることがあれば、俺はその覚悟にどう立ち向かうべきか迷っていた。
「総司……。」
その時、近藤さんや土方さんがやってきて、彼女を支える手を貸してくれた。「お前は無理するな。しっかりと休め。」土方さんが厳しく言うと、総司はうなずいたが、どこか寂しそうな表情を浮かべた。
「すみません。みんなに迷惑をかけたくなくて。」彼女は静かに答えた。
「お前が無理しても、俺たちは何もできないぞ。」近藤さんは力強く言った。「新選組のために戦うお前が、命をかける必要はない。お前が生きていてこその新選組だ。」
その言葉を聞いて、俺は改めて感じた。総司は、戦うことが自分の存在意義だと思っている。その覚悟が強すぎて、俺たちが支えてあげるべきだと思った。
その後、総司は無理をしないようにしばらく休養を取ることとなった。しかし、彼女の中で戦士としての自分をどう生きるか、心の葛藤は続いていた。
そして、これから待ち受ける未来に対して、俺たち新選組の歩みがどうなるのか、誰にもわからなかった。ただ、全員が一丸となり、どんな困難にも立ち向かう覚悟を持ち続けていた。
——その先に何が待っていようとも。