あの桜の木の下で
市村鉄之助の入隊からしばらく経ち、彼の姿は新選組の中で次第に目立つようになった。若さとエネルギーに溢れ、どんな困難にも立ち向かう姿勢は、隊士たちに新たな刺激を与えていた。しかし、そんな鉄之助にも、次第にその精神と肉体が試される時が来る。

ある日、屯所に急報が入る。新選組にとって重要な任務が舞い込んだのだ。それは、京の治安を守るための巡回と、相手勢力との接触が予測される危険な任務だった。近藤さんは、この任務に隊士たちを送り出す決定を下す。

「市村、お前も行け。」土方さんが鉄之助に声をかけた。

「はい!必ず任務を果たしてみせます!」鉄之助は意気込んで答えた。

「だが、無理はするな。」土方さんは鋭く見つめる。「まだ新米だろう。無理に先陣を切る必要はない。」

鉄之助は少し考え込んだが、すぐに笑顔を見せて答える。「わかりました。でも、必ず力になります。」

新選組のメンバーは、街を巡回し、治安の回復に努める。その最中、突然の襲撃が発生する。鉄之助は、初めての実戦に身を投じることとなる。

彼は最初こそ冷静さを欠いたものの、戦闘に慣れてきたその姿は、間違いなく新選組の隊士として成長している証だった。だが、戦いが続く中で、鉄之助の無理が重なり始める。

戦いが終わった後、鉄之助は息を切らしながら戻ってきた。その顔には、疲れとともにどこか自信のなさがにじんでいた。

「鉄之助、大丈夫?」そうちゃんが心配そうに声をかけた。

「はい、少し疲れただけです。」鉄之助は強がりながら答えたが、どこか無理をしている様子がうかがえた。

その後の数日間、鉄之助は休養を取るよう言われた。しかし、彼は訓練を続けようとした。無理をしてでも成長したい、そんな焦りが彼の中で渦巻いていた。

「無理してるでしょ。」そうちゃんが静かに言った。

「大丈夫です。少し休めばすぐに元気を取り戻しますから。」鉄之助はにこやかに答えたが、その目には少しの不安が見え隠れしていた。

「焦っても意味ないよ。」総司は冷静に言った。「新選組には、今のうちに無理しないほうがいいという時間が必要なんだよ。」

その言葉を鉄之助はしっかりと受け止め、少しだけ頷いた。

戦いの日々は、彼の成長を促す一方で、無理をしてしまうこともある。しかし、そういった日々の中で学んでいくことも、また新選組の隊士として重要なことだ。

鉄之助の心の中には、成し遂げたいという強い意志があった。その先に何が待っているのか、まだ彼自身もわからない。それでも、彼はこれからも新選組の一員として、京の街を守るために戦い続けるのだろう。

そして、新選組の絆が深まり、仲間たちの助け合いが次第に強くなる中で、鉄之助もまた、真の意味での「隊士」へと成長していくのであった。
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