結婚なんて、ゼッタイお断り!
稲瀬はそう言って、グッと大きな一歩で一気に私との距離を近づけた。
そして、そっと耳元でささやく。
「稲瀬組の組長の孫である俺と、大安寺組の孫のお前……」
「ち、近いってば!」
「俺たちが婚約すれば、もう敵同士じゃなくなる」
「どういう、意味?」
「これ以上狙われたくないなら、俺と結婚しろってこと」
「け、けけ、結婚!?」
予想もしていなかった稲瀬の言葉に、思わず彼を突き飛ばしてしまった。
でも、稲瀬はビクともしない。
「わ、私は結婚なんてっ、絶対に──……」
〝結婚なんて、絶対にしない。〟
そう言おうとした、そのとき。
「――美桜ちゃん!」
「あいつ、どこまで行ってんだよ」
「わーい!僕の婚約者さん、発見ー!」