歪んだ月が愛しくて1
バタンと扉が閉まる。
紀田先生が去った屋上には俺と頼稀の2人だけが取り残された。
「……行かないの?」
用件は済んだはずなのに頼稀は一向に屋上を離れようとしない。
だからと言って俺に用があるとも思えない。
何だかな…。
「お前こそいつまでここにいるつもりだ?」
まさかの質問返し。
予期せぬ返答に内心戸惑う。
「気が済むまで?」
「質問を疑問系で返すな」
いやいや、それは俺の台詞だから。
「……ここが好きなのか?」
「え?」
「最近よくここにいるだろう」
「………」
どうやら頼稀は俺がここで時間を潰していたことに気付いていたらしい。中々目敏いな。
「しかも紀田と逢引かよ」
「それは偶然」
「毎日ここで密会してて偶然?」
「密会…」
どこまで知ってるんだか。
クラスでは何も知らないみたいな顔してるくせに2人になった途端これだ。
空気は読めるようだがイマイチ頼稀が何を考えているのか分からなかった。
「未空が知ったら泣くぞ」
「未空?何で?」
「そりゃそうだろう。毎回毎回懲りずに口説いてるって言うのに当の本人は自分のことなのに我関せず。仕舞いにはここで隠れて紀田と会ってるなんて知ったら…」
「別に隠れて会ってるわけじゃねぇよ。ここで会うようになったのは本当に偶然で…」
「それ、紀田から貰ったのか?」
頼稀は俺のブレザーのポケットの膨らみを指差して言う。
「あー…流石に自分じゃ買えないし」
「……慣れてるな」
「そりゃ中1から吸ってるからね」
「………」
「何?説教でもする?」
今時煙草なんて珍しくないだろうに何をそんな物珍しそうに見ているのだろうか。
「BLACK DEVILか…」
その単語にビクッと肩が跳ねる。
煙草の灰が屋上のアスファルトに落ちた。
「趣味悪いな」
「、」
『……悪趣味』
それはいつかの自分の言葉と同じだった。
「ははっ…」
やっぱりそうだよな。
銘柄だけ聞いたら誰でもそう思うはずだ。
「俺、煙草覚えた時からずっとこれ」
ポケットからそれを取り出して頼稀に見せ付ける。
「初めて貰ったのがこれだったから何か愛着あるんだよね」
―――BLACK DEVIL。
アイツには似合わない。
悪魔を身体に取り込むのも、悪魔と呼ばれるのも。
「本当、趣味悪いよな…」
俺だけで十分だ。
光の中にいるアイツには全然似合わない。