歪んだ月が愛しくて1
「じゃあとっととそれ吸って早いとこ戻って来いよ。飯食いっぱぐれるから」
「了解〜」
「………」
ヒラヒラと頼稀に手を振ってその後ろ姿を見送る。
誰もいないことをいいことに俺は紀田先生から奪った煙草を携帯灰皿に捨ててまた新しい物に手を伸ばす。
「……嘘吐き」
屋上の扉を見つめながら紫煙を吐き出す。
「やっぱり場違いじゃん…」
一緒にいて楽だと思える人にも簡単に嘘を吐ける。
そんな俺はきっとこの場所に相応しくない。
『じゃあ全員揃ったってことでっ!』
『“りっちゃんと仲良くなり隊”の』
『結成ですね』
『……勝手にしろ』
彼等と仲良くなる資格なんてない。あるわけがない。
そんなの初めから分かってたことじゃないか。
何を今更…、
仮初の平穏を手に入れたところでどうにもならない。
失ったものは二度と手に入らないのだから。
「勘違いするな」
そう自分に言い聞かせてフェンスに凭れながらアスファルトに座り込んだ。
見上げればそこには雲一つなくどこまでも青い空が広がっていた。
春の終わりを告げるかのような優しい穏やかな風が俺を包み込む。
心地良い風に自然と瞼が落ちていく。
でも微睡の中はいつも決まって…―――、
そこに広がるのは、黒と赤の世界。
ああ、これは悪夢だ。
誰にも触れられない心の奥底に迷い込んでいる。
そこは有り得ないほど擦り込まれた世界で、目に見えない何かが俺をここに縛り付けて離さない。
『貴様のせいで…』
『俺は一度だってお前を兄弟なんて思ったことはねぇよ…』
『…ごめん、シロ……』
例えば目が醒めて「全ては幻だ」と奇跡めいた妄想を叶えてくれないだろうか。
でも現実は目を瞑りたくなるような真実で悲劇的なサイレンは鳴り止まない。
その全てから目を背けて逃げて来た。
背負いきれない罪を犯して置きながら罰を与えられずに。
『お前の居場所はそこじゃない』
報いを受けるのは当然だ。